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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】SHORT CIRCUIT(2006年12月号)- 最後までマイペースに、「らしさ」を失わずに走り続けた10年

最後までマイペースに、「らしさ」を失わずに走り続けた10年

2006.12.01

7月5日にロフトで、8日にはシェルターで、大勢のファンに見守られながら解散したショート・サーキット。そこには大袈裟なドラマもお涙頂戴の悲劇性も見当たらなかった。柔らかくて温かくて一見は「幸せそう」に見えるバンドとリスナーの、それでも「複雑で切ない」想いがずっと漂っていただけだ。そういう「らしさ」を最後まで失わなかった彼らは、約10年に及んだバンド活動を今どのように振り返るのだろう。ラスト・ライヴで披露された持ち曲全42曲(うち未発表曲2曲)を完全収録したDVD『my favourite time final』の発売に合わせて、原 直央(vo, b)にゆっくりと話を訊くことができた。(interview:石井恵梨子)

最後のライヴも普段通りを心がけた

──もう何ヶ月越しの質問になるんですけど、まずは、解散という道を選んだ理由について訊かせてもらえますか。

原:そうですね。去年……いや、その前から新しいアルバムに向けて動いてたんですよ。ナッヂ(・エム・オール)とのスプリットを出した後から、次の作品に向けた仕込み的な活動をしていて。その中でちょっと、次のアルバムを出して一回休止しようっていう話がバンドの中で出て。ちょうどそれぞれ別の活動し始めたり、そっちが活発になってきたりして。別にそれが決定的な理由ってわけではないんですけど、とりあえずもう一枚アルバムをバシッと作って、そこで一回休もうかって話になっていて。

──でも、結果的にそのアルバムが世に出ることはなくて。

原:そうなんですよね(苦笑)。それが唯一心残りと言うか。僕けっこうライヴでも「次のアルバム出す」って公言してたから、楽しみにしてくれてた人達には本当に申し訳ないんですけど。ただ……なんて言うのかな、一度バンド内でそういう話が決まると、なかなか制作のスピードが上がってこないし、簡単に言っちゃえば僕自身のテンションもなかなか上がらない。まぁ、自分達で決めて動いたことではあるんですけど、それぞれがショーサキが終わった後の活動までを見据えながら作業を続けるよりは、一度バンドを終わらして、ゼロに戻してから考えたほうが前向きかなって。それでみんなで話し合って、解散という結論に至ったわけなんですが。

──正直、ショーサキとしての行き詰まりのようなものはあったんですか。

原:行き詰まってたって感じはないです。実際次のアルバムに向けて曲も作ってたし、ライヴで音源にしてない新曲をやったりしてたんで。なんとなくアルバムのヴィジョンがうっすら見えてたりした部分もありつつ。だから行き詰まりっていう空気はなくて。

──だったら「絶対やめたくない」「続けよう」という意見は出てこなかった?

原:いや……まぁやっぱり、これだけの時間やってきたバンドだから簡単に「判った」とは言えなかったですよ。そこは本当に話し合ったし、それ以外の方法はないか、それこそ活動休止っていう形にするのか、それとも何事もなかったかのようにそのままやっていくのか、いろいろ考えて。でも選択肢ってどっちにしろそんなになくて。

──あぁ、うん、二つに一つですよね。

原:そう。しかも一度バンドの中でそういう空気が出た以上は、何事もなかったように続けていくのがけっこう難しくて。ただ結論を出すに至るまでも凄く時間がかかったし、結論が出た後も、それこそ終わり方をどうするのか、最後解散ライヴをやるのかツアーもやったほうがいいのかとか、はっきり言ってどうしていいのか判んなくなった部分もあって。今まで応援してくれた人に対して考えるならちゃんと最後にツアーをやるほうがいいんでしょうけど、その反面、終わることを見据えてやるのってどうなんだろうっていう。

──まぁ、気持ちの問題ですよね。

原:そう。周りのバンドとか見てて、最後にドーンと終わるのも全然いいとは思うんですけど、自分のこととして考えた時に……これってどうなんだろうなぁってジレンマがあって。まぁ結局やったんですけどね、最後。あまりにも何もしないで事後報告みたいに発表するのはあんまりかなって思ったから、結局こういう形になったんですけど。

──本当のラスト・ライヴになったシェルターは観られなかったけど、その前のロフトは本当に温かいライヴでしたよね。らしい解散の仕方をするなぁと思ったけど。

原:あー、ロフトは有り難かったですね。あれだけのバンド(注:ビート・クルセイダーズ、トロピカル・ゴリラ、ナッヂ・エム・オール、プーリー、アスパラガス)が出てくれて。あのライヴと最後のシェルターでワンセット、みたいな形は最初から決めてたんで。

──あのとき名曲をバンバンやってて驚いたんですよ。普通これアンコールに取っておくだろっていう曲も本編でボンボンやっちゃうし。あのさりげなさが実にショーサキらしかったと言うか。

原:うん、あのロフトに関しては持ち時間もそんなになかったから、ある種オイシイとこ取りじゃないけど、バンバンやっちゃっていいのかなって。正直どんなライヴになるのか想像がつかなかったんですよ。それこそ終始嗚咽してるっていうのも……自分の性格的に想像できなかったし。最後ちょっと泣いちゃいましたけどね(笑)。でもまぁ、普段通り、いつものライヴ通りっていうのは心がけてたし、そういう意味じゃショート・サーキットらしかったかなぁと思うんですけどね。

職人気質に同じことを続けながら波瀾万丈していく

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──パッと見は普段通りで、凄く淡々としてるように見えるんだけど、その内面には複雑な感情が絡まってて。ショート・サーキットってそういうバンドでしたよね。普通と言うと語弊があるけど、特別じゃないんだっていうことを淡々と綴っていた。


原:うん……別にそればっか特化して意識してたつもりはないですけど。ただ、特別じゃない、ほんと日常的なこととか、なんか身近だったり想像力が膨らむようなことってやっぱり自分が聴いてても一番グッと来るものだから。あんま等身大っていう言葉は好きじゃないんですけど、でもショーサキはよくそういうふうに言われてて、そう言われた理由もそこにあるんだと思うし。やっぱりみんな普通の人間だから。3人とも普通以上に普通だったと言うか(笑)。

──初期からそうでしたね。ライヴで客はモッシュだのダイヴだので盛り上がってるんだけど、よーく見たらステージ上の3人はそこまでテンション高くないぞっていう。

原:はははは! それ常に言われてましたね。淡々としてる、とか。

──少なくとも「今日はパーティーです! 楽しんで!」とか言うタイプじゃなくて。

原:うんうん、それはなかったですね。別にそういうバンドがいてもいいし、自分が観に行ったら、いいな、楽しいなって思うんですけど。でもそれができなかったのは……簡単に言うと人間性の問題なのかな。どうしてもそうはならなくて。あと僕はラモーンズが本当に好きで、めちゃくちゃ影響受けてるから、その刷り込みっていうのが大きいかもしれない。ラモーンズのライヴってそれこそ淡々としてるんですよね。余計なことは何もなくて、「曲、曲、曲!」って感じなんですよ。それだけずーっとやっていくみたいな。そういう感覚が自分の中にあるんだろうな、とは思いますけどね。

──下手に波乱万丈なドラマを繰り返すより、ひとつのことを淡々と続けていくことのほうが美しい、という意識ってありますか。

原:うーん……どうなんだろう? 単純に音楽的なことを言えば、僕はやっぱり進化していくもののほうが好きだし、進化して当然だろうとも思ってる。初期と今ではまったく違う音楽になっているバンドも好きだし。ただその一方で、ひとつのことにこだわってずっとやっていくことに憧れもあって。だから、ある種職人気質な感じでずっと同じことを続けながら、その中で波乱万丈していく、みたいなやり方が合ってたのかな。自然にそうなってた部分もあるし。たぶん波乱万丈なものに対する憧れっていうのはあるんですけど、それだけではなかったから。

──私自身、その魅力に気付くのに時間がかかりましたね。最初は刺激があるほう、派手なほうに目が行っちゃうし、ショーサキって安定してるぶん刺激が乏しいと思ってた。

原:はいはいはい(笑)。たぶんね、ショート・サーキットのパブリック・イメージってそれがすべてだったと思いますよ。本当に派手さとは縁遠かったし。ただ、出てきた時期は僕らを取り巻く環境がけっこう派手だったと言うか、周りのバンド、シーン自体に活気があったんですよね。最初の音源とかも手放しで受け入れられたし。そういう意味では凄いラッキーだったのかな。全然違う状況の中であったら見え方も受け止められ方もまったく違ったと思いますし。でも、だからこそ余計僕らみたいなバンドは地味に見えただろうし、そこはもう3人とも判ってた部分なんですよね。判ってたからこそ、そこを強みにできた部分もあったし。基本的に変わらないと言うか。もちろん音楽的に変えようとしてた部分はあるんだけど、バンドのイメージとしては終始一貫してる。それは振り返ってもあると思いますね。

──ただ、その中でも実はけっこうな波乱万丈があって。本当に何もなかったバンドでは全然ないわけで。

原:そうですね、もちろん。たぶん外からは見えにくかったとは思いますけど。

──伝わりづらいことを歯痒く思うことはなかったですか?

原:うーん……そんなには。結局、見てもらいたいところ、聴いてもらいたいところって全部作品なんですよね。作品がすべてだったし、あとはライヴ。すげぇ当り前のことかもしれないけど、結果がすべてって言うか、作ったものに対するリアクションが得られれば満足だったんですよ。逆に言えば作品の部分での変化みたいなものは受け止めて欲しかったんですけど。ただ、これはどんなバンドでもそうだと思うけど、最初に出てきた時のイメージってやっぱり強烈で、リスナーとしてはどうしてもそこを求めちゃうんですよね。でも作る側としてはやっぱり日々変化していくし、その時その時でやりたいことも変わっていくし。そういう部分での歯痒さっていうのは正直ありましたね。まぁ、作品を作っていくことってこういうことなんだなって次第に判ってきましたけど。

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