Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】MONO(2004年5月号)- 徹底的な構築美を見せるメランコリックな残響音

徹底的な構築美を見せるメランコリックな残響音

2004.05.01

"悪い音楽"を聴かないためには、"よい音楽"だけを聴けばいい。そんな当り前のことに改めて気付かされるのが、MONOの3rdアルバム『Walking cloud and deep red sky, Flag fluttered and the sun shined』だ。徹底的な構築美を見せるメランコリックな楽曲は、彼らが新たな次元に到達した予感を漂わせる。5月25日には新宿ロフト公演も決定。欧米で絶大な支持を受けるパフォーマンスを体感できる貴重な機会となるだろう。(interview:土屋京輔)

聴き手の感情を呼び起こし、フィードバックしてさらなる高みへ

──MONOについて知らない人もいると思いますので、まずは基本的なことから伺いたいんですが、結成は2000年ですね。
 
goto:そう。僕がインストゥルメンタル・バンドを始めたいなと思って、ずっとメンバーを探してたんですよ。当時はシーケンサー、コンピュータを使った、もうちょっと複雑な音楽をやってたんだけど……そのときは何でもよかったんですよ、普通 のロック・バンドのような形態じゃなければ。僕もいろんなことに飽きてて、何か新しいことをやりたかったんですね。だけど、結局、もっとダイレクトなものをとギターに立ち返ることになって。99年秋にドラムのtakadaくんと出会ったんだけど、そこでヴィジュアルとかが開けたんですよ。コンピュータとか、いいメンバーの替わりとなるようなもので自分の音楽を再現してみたいと思っていたのが、もっともっと生でエモーショナルな楽器を叩ける人、弾ける人が欲しいなというように、頭がどんどん還元していったと思うんですね。
 
takada:初めて会ったときは別のバンドをやるために集まってたんですよ。それなのに違うバンドをやろうって言ってきて。
 
goto:そう。会って30分ぐらいで、新しいバンドやろうって。
 
──具体的な音楽性についての話もあって?
 
takada:ええ。でも、100%は理解はできてなかったです。リーダーに人を巻き込む力があったんですかね。僕は曲を書くわけではなく、演奏するだけと言うか、表現するものを出してくれる人がいて成り立つんですよね。
 
yoda:僕は(gotoには)前から親しくしてもらっていて。兄貴みたいなもんなんですけど、あるとき“いい人いないか?”って訊かれたから、ここにいるよって。何か一緒にやる機会があればいいなとは思ってましたけど、自分から言うのもおこがましいんで、これはチャンスと。当時も僕は別 のバンドやってて、そこでも凄く煮詰まってたというのもあったんですよ。このバンドに入って、すべて真っ白にされた感じですね。
 
takada:うん、それはありますね。
 
yoda:今までの価値観みたいなものも全部なしみたいな。それが結局、音楽の本質にホントに近づいてるということだったんだなと。音楽に対する姿勢や本質的なものを忘れてスタイルから先に入ったり、当時はそんなふうに音楽を聴いてたと思うんですよ。
 
tamaki:私は元々、gotoさんのギター・サウンドとかは好きで、当時は彼が何をやっているのかは全然知らなかったんですけど、会う前に今で言う1stアルバム(『under the pipal tree』/2001年)の曲が入ってるデモ・テープをもらったんですね。そこで思ってた世界を突きつけられたみたいな。その後、実際にセッションに入ったんですけど、もう私の中ではすぐに“やりたい!”っていう感じにもなって。
 
──そもそもインストをやろうと思った理由は何だったんですか?
 
goto:歌えなかったからというのが大きいですね。あとは誰か歌える人間を立てた場合、自分の意思を伝えようとしても弱くなっちゃうと思ってきたんですよ。それと同時に、サンプラーやコンピュータをいじっていることもまどろっこしく感じてきて、マーシャルを何十台も並べて、もの凄いノイズを出してみたり、シンプルだけど凄いショックを与えるようなことのほうが面 白いんじゃないかなとか、当時は思ってたんですよ。
 
──アルバムにはストーリー性まで感じますが、楽曲はどのように完成させるんですか?
 
goto:最初に僕がデモを作って、スタジオでみんなで演っていくんですけど、その曲がどんな感情で、どんな表現なのかは僕だけの話なんで言う必要がないですよね。それぞれが自分なりの表現を持ってきたとき、また違った感じに聞こえてくる。何か不思議なんですけど、それをツアーで演奏していくうちに完成していくというか。だから、前のアルバム(『one step more and you die』/2003年)にしても、1年半かけてやっと完成したなって感じ。レコーディングとか、僕が書いた時点では、赤ちゃんみたいなもんなんですよ。プライヴェートなちっぽけな感情から始まって、だんだんそれが人と人を結んでいき、巨大な何かになっていく。逆に僕らがどんな曲なのか、客に教えられたりするんですよ。映画みたいにいろんな人の感情を呼び起こして、僕らがまたそれに気付かされて表現が変わり、さらに高みに上っていく。
 

限りなくオーケストラに近いMONOの世界

──他のみなさんの曲に対する臨み方は?
 
tamaki:歌とか詞がない分、感情の部分を上手くベースで出せるようにとは思ってますね。底辺を支えるという部分では、なるべく懐が大きな感じを出していければいいなと。
 
yoda:上手く言えないけど、曲がちゃんと伝わればいいと思ってるんで、その中の一つのパートでありたい感じかな。
 
goto:限りなくオーケストラに近い感じですよ。ソロイストは要らない。そういうアンサンブルの中の一つという認識。どれだけ上手く弾けるかとか、どれだけ目立つかとか、そこにはまったく興味がなくて、一個のオーケストラの集団として、どれだけ自分のパーソナリティや感情が出せて、みんなの解釈の中で自分の居場所を見つけられるか。自分の中に見えない指揮者を立てて、そこにクリエイトしていくように演奏してる。MONOの世界が出来たとき、僕らの中ではギターとかベースとかドラムという解釈はないんですね。新しいアルバムでは、いろんな楽器も試してますけど、結成したときから、基本的にはロックのフォーマットなのかもしれないけど、僕たちが表現したい音楽は、そのフォーマットではないという矛盾があった。そこはチャレンジと実験を繰り返してきた感じですね。
 
──MONOの音楽性を説明するうえでわかりやすい話ですね。今までになかったものを作りたい気持ちは常にあるはずですが、新作も今回ならではの考えはあったと思います。
 
goto:自分たちがどんなものか、海外で日本のバンドが通 用するのか、そういう初心者マークみたいなものも全部取れて、MONOの立ち位 置も全部を認識したうえで、初めてトライできたのが今回のアルバムなんですよ。その意味ではスティーヴ・アルビニの起用もそうだし、自分たちのすべての経験をちゃんとパッケージしなきゃと思ってましたね。それと同時に、前作を作ってから、テロとかいろんなことが気持ちの中から取れなかったんですね。毎日、毎日、ノイズのショウをやる中で、次のアルバムはこんなに暗黒なものにしたくないと固く誓ってて。怒りの感情を出せば出すほど、希望に満ちあふれた音楽を表現したいという気持ちに駆られたんですね。そこで去年の夏に一度、日本に帰ってきたとき、何かトライしてみようと、ローズとかメロトロンとかいろんな古い楽器をスタジオに並べて、この中からチョイスして何か面 白いものができたらなと。あまり指摘する人はいないんだけど、結果的に今回はtakadaくんはB3オルガンを弾いたり、半分の曲でドラムを叩いてないんですよ。 yodaもメロトロンだったり、 tamakiもローズを弾いたり。そういう意味では、僕らはインストゥルメンタル・バンドであって、ギター・ロックのフォーマットであるという認識を、無理に自分たちでアピールする必要はないんじゃないかなと思った後の作品ではあると思いますね。
 
──ええ。ディストーション・サウンドが前面に出てこない用い方を含めて、従来とは異なる感触のアルバムになってますよね。
 
goto:うん。ディストーションを使う、使わないという話も擬似的なことじゃないですか。そんなことには興味がなくて、表現したい“希望”の感情がまずあって、そのためにはどうしたらいいのか熱中した結果 がそうなったということなんですよね。
 
takada:いい意味でバランスのとれてるアルバムだなって思うんですよ。ドラムにしても、まったくもってもっと叩かせろとか思ってなくて、自然なことだったんですよ。いい音楽が作れていれば、それでいい。楽器のチョイスも突き詰めていくと、答が一つしかないんですよ。それは表現の幅が狭まるように聞こえるかもしれないけど。
 
──的確な表現をするための答ですよね。
 
yoda:最高のものができたと思いますよ。できる限りいろんな人に聴いてもらいたいし。
 
tamaki:みんなでディスカッションしながら同じ方向に向かって進めていったんですけど、ハッピーに音楽をやってきてよかったなと思いながらレコーディングできたんですね。長い間やってきて、これが自分たちの作品、表現したいことですと、充分に人に伝えられるようなアルバムになったと思います。
 
takada:等身大で最高のものが作れたと思います。今までやってきたことと、今やれることを照らし合わせた結果だと思うんですよ。
 
──不可能はない感じがしますよね。
 
goto:僕らは何とかなると思ってるフシがありますね(笑)。本来もっと自由であるべきだと思うんですよ、表現は。ちょっと話が前後しますけど、今回はアルバムの中に赤い紙を入れてて、“これは千羽鶴の1枚です”といったメッセージが書いてあるんですね。僕らは世界最初の被爆国の出身でもあるし、そのメッセージの一つ一つが平和につながっていけばいいなという思いがあるんです。その意味では、今回のツアーはいつもより歓喜の要素が多いライヴになるんじゃないかなって。MONOっていうと、怒りの混沌としたノイズがメインだと思われてるけど、憂いの中から歓喜に至る表現をできたらいいなと思ってるんですけどね。
休刊のおしらせ
ロフトアーカイブス
復刻