バンドとして人間として経験を積み重ねていくことで、一回りも二回りもTHE STAND UPの音色は作品ごとに深みを増している。たとえ暗闇の中にいたとしても、常に光明を見つけ出し、自分たちの歩幅を忘れない彼らの歌詞とサウンドは聴く人にも大きな感銘を与えることだろう。あるがままの心を映し出した今作も嘘偽りのない彼らの姿だ。2月に予定されている3rdアルバムも今から心待ちにしている。(text:荒金良介)
“今を大切に”という初志を再確認するような「ひとつのはじまり」
坂本タカノリ(Vo):レコーディングに入る前に怖かったりするんですよね、雰囲気が違う曲を作ると。自分たちって果 たしてこういうことをやっていいのかなって。でも、それでいいんだよねって。それが今回の曲でまた再確認というか、新たに見つけられたことかなって。なんでもありじゃんって。スタジオで合わせているだけだと客観的に聴けないんで。終わってみると、かっこいいよねって。
地元・埼玉県熊谷に拠点を置く4人組、THE STAND UPが2ndシングル「ひとつのはじまり」を完成させた。今作は全3曲入りの内容になっており、新曲2曲ともう1曲は今年オリコン初登場6位 を記録した2ndアルバム『ちっぽけな勇気と…。』に収められている「ありがとう」のライヴ・バージョンで、これは初の学園祭ライヴの熱狂を封入したものである。
今作の、特に新曲2曲には冒頭の坂本の言葉にも表れているように、今までの彼らとは情調を異にする気配を楽曲から感じ取れる。遡ると、9月にリリースされた1stシングル「夜明けの光/永遠じゃない喜びよ」の時点で坂本の胸奥にある思いが強烈に突き上げてくる。それは「より多くの人に自分の言葉=歌詞を伝えたい」という表現欲だった。その心の源泉には、テレビを観ていると暗いニュースばかりが多く、とりわけ日本の1日の自殺者率が80人(世界の中でも日本は突出して自殺者が多い国)くらいいるというニュースを耳にしたときに、例えばそういう人々を少しでも踏み止まらせる言葉を音楽を通 じて届けられないものか、と坂本は思案した。
それからというもの、これまで自分自身に向けて歌詞を書き歌っていたスタンスから、さらに聴き手という第三者を内包した表現を強く意識するようになった。今作がより一層説得力を持ち、底から湧き上がってくるような力感に溢れている一要因はそういうところにある。まず、1曲目「ひとつのはじまり」はバンド結成当初からのコンセプトでもある“今を大切に”という初志を再確認するような楽曲に仕上がった。
坂本:自分がものを書くときに、常にいつもここからという気持ちがあるから。だから、“今”とか“これからが始まり”というキーワードがあって。そういうものはこれからも変わらないと思う。だから、再度引き締め直すじゃないけどまた出てきたという。ひとつツアーが終わって、またここからだという時期に書いたと思うんですよ。そういうのも混ざってるんじゃないかなって。それと、こういう曲調ということもあるし、本当にこれでいいのかなあという気持ちもありつつ、こういうのもやりたいという気持ちが“ひとつのはじまり”にさせたんだと思う。
過去の楽曲と比較するならば、「ひとつのはじまり」は派手さには欠けているかもしれない。しかし、それ以上に実感が込められた言葉の響きが心に深く切り込んでくる。歌詞の「愛する気持ちを忘れないで」という一節は優しいメッセージとなって、すっと耳に入ってくる。2曲目「青空色」は掛け声コーラスが躍動感を増幅させる従来の路線を踏襲したノリのいいナンバーだ。ただ、闇雲に明るさを振りまく曲調ではない。歌詞の「奪い合うことで僕は今 何かを失っている」という一節には肉体を通 して発せられる重みが備わっている。
自分は自分でしかないから強がる必要もない
坂本:そのときの環境がすごく出るから、それを全部プラスにしてたいですよね。音楽をやってる以上、俺らもこんなことあるよって伝えられたらいいし。弱くていいけど、気張れとか思ってなくて。考え方的に音楽をやっていく中で、もしかしたら競ってなきゃいけないんだけど…その考え方が嫌だなって。どのバンドとどのバンドとかじゃなくて、そこで争ってもさあっていう。そういうとこだけに捉われると、失うものが多いんじゃないかなって。自分は己とという。多分、自分が弱いから相手と戦わせるんだと思うんですけど、あまり人のことは見ないように。自分は自分でしかないから強がる必要もないし、1歩ずつ歩いていきたいなって。それを切り裂きジャック・ツアーをやったときに自分には見えたというか。観てくれる人のありがたみをすごく肌で感じちゃって。だから、やっぱりそういう人のことを考えて作るようになりましたね。