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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】岡野弘幹 with 天空オーケストラ ('04年1月号) - いろんな民族楽器を世界中から集めても、一つのロックができる

いろんな民族楽器を世界中から集めても、一つのロックができる

2004.01.17

 岡野弘幹 with 天空オーケストラといえば、風のまつり、レインボー2000、そしてフジロックからグラストンベリーフェスティバルまで、大小様々なフェスティバルや祭りのあちこちに登場するバンドとして、フェス好きには知れ渡った存在である。世界中から高い評価を受けているこのバンドは、しかし、日本のロックシーンにおいては意外とまだ認知度が低いことも残念ながら事実である。2月8日に新宿ロフトで、天空オーケストラを中心とした「天空まつり」が開催されるのに際し、Rooftop誌上で、岡野弘幹にこれまでの歩みを聞かせていただいた。日本の音楽シーンには収まりきらない天空オーケストラの活動内容は、現在に生きる私たちに多くの希望を与えてくれるものではないだろうか。(TEXT:加藤梅造)

日本人のアイデンティティって何?

 日本の、アンビエント、トライバルシーンにおける先駆的存在である岡野弘幹は、大学在学中より音楽制作プロダクションに在籍し、TVCM、番組、アルバムプロデュースを行っていた。プログレ、ブルース、ジャズなどあらゆる音楽を分け隔てなく聴いていた岡野に最初の転機が訪れたのは、某メジャーバンドのプロデュースの仕事でヨーロッパに行った時だった。

岡野弘幹:その頃はちょうどビート・ロックが流行ってる時代で、そういったプロデュースの仕事をしていて、あるバンドをヨーロッパでデビューさせようということで、レコード会社からかなりの予算をもらって、ヨーロッパに行ったんです。その時、イギリスのあるプロデューサーにバンドの音源を聴かせたら、「よくここまでそっくりに真似したなあ。あんたら日本人のアイデンティティはないのか」って言われて、結構ショックを受けたんです。それで帰ってきていろいろ考えたんだけど、こっちは生まれた時からコカコーラ飲んで育ってるんだから、日本人のアイデンティティって言われても、そんなのどこにあるんだろうって悩んで、すっかりやる気をなくしてしまったんです

 その後、音楽制作の傍ら、自分なりの日本人のアイデンティティを模索し始めた岡野は、奈良の吉野や天川など、いわゆるスピリッチュアルな場所を徘徊するようになるのだが、ある時、仲間のミュージシャン、山本公成に天河神社の宮司さんから、新しい神楽をやってみないかと声がかかり集まったのが「風の楽団」だった。

岡野弘幹:神楽と言えば、普通、雅楽が思い浮かぶんですが、雅楽のルーツを調べていくと、実は、雅楽で使っている楽器のほとんどは日本のものではなくアジアからきたもので、中には中東辺りからきているものもあるんです。「じゃあ、日本のオリジナルって何なんだろう?」って考えて、それなら雅楽のように、それぞれの国のルーツの楽器を集めて演奏してみたらどうなんだろうと思って始めたのが風の楽団で、僕が民族楽器にはまっていくきっかけでした。

 ちょうどその頃ドイツのIC DIGIT(プログレ界の重鎮・タンジェリン・ドリームのクラウス・シュルツが作ったレーベル)とアルバム契約をした岡野は、多くのCDをワールドワイドリリースし、ヨーロッパツアーも行うようになった。そこで岡野は、音楽を通じてヨーロッパ文化の深層を知ることになる。

岡野弘幹:僕らがやっているのがナチュラルな種類の音楽だったこともあって、ヨーロッパでツアーをやってるうちに、行った先々で、そういう人達と親交が深まった。例えばグリーンピースの活動をしている人や平和運動家、環境アクティヴィスト達と繋がって、その人達のノウハウを学ぶことができたんです。といっても僕の場合、エコロジーと言えるほどたいしたことはやってなくて、音楽をやっている中で、なんでヨーロッパのミュージシャンの多くがオーガニック・フードって言っているのか、その理由がだんだんわかるようになったんです。

田んぼで生まれた天空オーケストラ

 風の楽団や自身のソロワーク、またはセッションで、日本国内、そして海外で数多くのフェスティバルに参加していた岡野が、1995年に共鳴するミュージシャン達と自然発生的に始めたのが、天空オーケストラだ。

岡野弘幹:三重県の伊勢山に崑崙舍(こんろんしゃ)という摩訶不思議なスペースがあるんです。そこで田植えの祭りをやることになって、田植えをしながら、そこにバンドが出て応援するという、そういうイベントをやってたんですよ。ある時、その祭りに行ったら、チラシに“岡野弘幹with 天空オーケストラ”って書いてあったから、それ見て、「これって何なん?」って訊いたら、そこのオーナーが「お前らがいつもやってるセッションバンドのことだよ」って言われて、それで天空オーケストラという名前になった(笑)。

 人と自然の大切な繋がりをメッセージに、世界中の民族楽器を駆使し紡ぎだされる天空オーケストラのサウンドは、既存のワールドミュージックやエスニックの枠に収まらないディ-プな即興演奏から、クラバーをうならせるリズムマジック、そしてダンスワークを交えた圧倒的なライブパフォーマンス等、独自のトライバルロックというジャンルを確立した。また、こうした活動は、ちょうど90年代以降に盛り上がってきたレイヴ・カルチャーのシーンと呼応するものでもあり、日本のテクノシーンにおいて最重要イベントとなった98年のレインボー2000でも、岡野と天空オーケストラは重要な役割を果たしたのだ。

岡野弘幹:レインボー2000をプロデュースした越智(純)さんとは田植え祭りで知り合いだったんだけど、彼から頼まれてレインボー2000のチルアウトエリアのプロデュースをやったんです。その年、僕は風の楽団やソロ活動で、テクノと民族楽器をミックスした編成でヨーロッパツアーをしてたんだけど、ちょうどその頃、グラストンベリーフェスティバルで試された初めてのソーラー発電のコンサートに、僕らが実験台として出ることになった。その時のノウハウを僕らがもって帰ってきて、レインボー2000のプロデューサー達に「どうせやるんだったら、原子力発電のエネルギーじゃなくて、ソーラーでテクノをやるほうがカッコええんちゃう」って話をして、それがレインボーパレードや春風につながっていった。そういう流れがいろいろありましたね。

画一化ではなく多様性を大事にしたい

 レインボー2000に始まり、その後のフジロック・フェスティバルの成功と、日本でも確実にフェスティバル(=祭り)という概念が定着した感があるが、こうした一連の流れの中にいた岡野はフェスティバルをどう捉えているのだろう。

岡野弘幹:ヨーロッパやアメリカでは既にレインボー・ギャザリングという、お金を介在させないで、やりたい人がその場所に集まってギャザリングをするという方法が既にあって、そういう考え方ってすごく自由だなあって思っていた。日本のフェスティバルの場合、どうしても興行っていう意識が強いんだけど、メインアクトが誰それだから行くっていうんじゃなくて、フェスティバルに行ってそこで自分の知らない何かに出会える、フェスティバルそのものを楽しむっていう感覚が一番大切だと思う。また、そういう所から生まれてくるバンドってすごく活き活きしてるし、パワーが強い。そういうグループが日本からもっと出てくることがすごい必要だよね」「あと、そういったミュージシャンって、歌詞にしてもMCにしても言いたいことをはっきり言いますよね。天空がヨーロッパツアーを始めた頃にツアーをコーディネイトしてくれたのが、元セックス・ピストルズのプロデューサーだったデイヴ・グッドマンだったんですけど、彼がよく僕に言ったのが、ちゃんと伝えることを伝えなければダメだってことなんです。今の社会の中でどういう問題があって、それを自分がどう感じているのかをはっきり言う。なかなか日本はそういうことがやりにくい社会であるんだけど、天空はそういった腰の据わったグループになっていきたいなと思ってやってます。

 世界中でフェスティバルを経験してきた天空の活躍により、日本でも最近はミュージシャンとアクティヴィストの交流が盛んになりつつある。

岡野弘幹:やっぱり天空のメンバーは、そういう感覚がある人というか、熱い人が多いですね。もちろん天空オーケストラの中には、それぞれの人が考える平和の形があって、個人の意識は多様だと思うんですよ。違いもあるし、それはあって当然で、今の社会の問題は、多様性を否定してしまうことで、それこそが平和でなくなってしまう一番の原因だと思う。僕らが音楽で一番伝えたいことは、あれだけいろんな民族楽器を世界中から集めても、一つのロックができるんだっていうことなんです。多様性はそのままでかまへんのじゃないか、多様でええやんっていうのが、天空のメッセージだと思って演奏してます。面白かったのが、以前イギリスのツアーで演奏が終わった後、トルコ人とアイルランド人とカナダのインディアンとイギリス人が皆それぞれ『あんたらの音楽は俺らの民族のルーツに近い』って異口同音に褒めてくれたんです。それを聞いたとき、ああ、俺たちのやりたいことっていうのはこういうことなんだなって思いました。

フェスティバル・スピリット

岡野弘幹:地方のフェスティバルや祭りを見るとすごいレベルが上がってきてるし、本質的なスピリットが芽生えてきてると思います。興行として巨大なイベントも増えているけど、地方の数百人単位の小さなフェスティバルでは、地元の人達が自分たちの想いを大切にしながら場を作っていますね。今は小さいかもしれないけど、それが十年続いたらどうなるんだろうっていうのが楽しみです。今でこそ世界最大規模と言われているグラストンベリーフェスティバルだって、もともとあそこの農場主の誕生日会に身内のミュージシャンが集まったもので、35年続けていたらあれだけの規模になっていた。だから意識はすごく高いし、今でも収益金の何割かを環境NGOに寄付したりしてるじゃないですか。ちゃんとフェスティバル・スピリットがあるんですよね。

 そして、今回ロフトで行われる天空まつりも、天空オーケストラを好きな有志が集まり、一から手作りで作っている、フェスティバル・スピリットに溢れたイベントといえるだろう。

岡野弘幹:もともと天空のライブに来てくれてた人達が、ライブを観て感じたことや、自分たちもこんな祭りを作りたいって始めたのが、天空まつりですから。まあ、いろいろ難しい所もあると思うんですが、こういった手作りの祭りがうまく続けていければ、これからもっと面白くなっていくと思いますね。もちろん天空オーケストラもどんどん変化していて、今度のロフトではよりロック色が強くなると思います。みんなが元気になって、自分の内側のパワーをガーンと出せる場になったらええなあと。溜まってるもんを全部出しきってほしいですね。(文中敬称略)

 

LIVE INFOライブ情報

2004.2.8(日) 『天空まつりVOL.7』
LIVE:岡野弘幹 with 天空オーケストラ、OZONE BABY、児玉なお&GORO(from MAJESTIC CIRCUS)、サヨコ オト ナラ(ex・ZELDA)(ex・じゃがたら)
VJ:万華宙
時間:*LIVE・START18:00、ラウンジエリア・START16:00
場所:新宿ロフト 
料金:前売り¥3500/当日¥4000
ご予約・お問い合わせ RainbowSPIRIT
 
<ラウンジエリア>
■SHOP ぐらするーつ、アフリカンフード・ビングル、麻こころ茶屋、ぎゃらり和楽、NATIVE AMERICAN STYLE LEATHER CRAFT、ALOHA Cafe他
■サブステージ 「大好き・楽しい・幸せをありがとう」をテーマにさまざまなアーティストがそれぞれのPEACEを表現します。
☆天空まつりはWorld Peace and Prayer Dayを応援しています。収益の一部はWorld Peace and Prayer Dayへ寄付させていただきます。
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