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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】加瀬亮(2003年12月号)- 裸の自分で監督の前に立つしかなかった

裸の自分で監督の前に立つしかなかった

2003.12.01

 来年1月に公開が予定されている映画『アンテナ』。人間のここまでも!と思う感情を見事に映しながらも、温かみさえ感じさせてくれる映像センスは熊切和嘉監督ならでは。今回はこの作品の主演を飾る俳優の加瀬亮氏に映画「アンテナ」の話をはじめ、制作秘話、また、映画公開を記念して1月8日にプラスワンで行なわれるイベントに出演が決まっている熊切監督についてのお話を伺いました。(interview:和田富士子)

監督を前に小細工なんて絶対通用しないっていう思いがあった

──元々監督とは面識はあったんですか?
 
加瀬:共通の友人がいて話はよく聞いていたんですけど、お会いしたのは結構経ってからで。それで初めて会った時に軽く“こういう小説があるから読んでみてくれないか?”と『アンテナ』の話を。正式にやることになったのはその後です。
 
──『アンテナ』を読まれてどうでしたか?
 
加瀬:最初は……しんどいなぁと(苦笑)。きついな、というのが素直な感想ですね。
 
──実際演じられた感じはいかがだったんでしょうか?
 
加瀬:そうですね……まあ予想通りしんどかったんですけど。でも、やっぱり熊切監督と仕事が出来たのがよかった。そこで出逢えた脚本や音楽を担当してくれた人たちも同世代が多かったり、プロデューサーの松田さんも僕の大好きな(ジョン)カサベテスの特集記事を以前SWITCHでやっていた方なんで、好きなものを共通する感覚を持っている方々に出逢えたというのがなによりも良かったですね。
 
──じゃ、いいスタッフに囲まれてという感じなんですね。同い年の監督さんとのお仕事というのは今までもあったんですか?
 
加瀬:最近またあったりしたんですけど、熊切監督が初めてです。もちろん同い年だからというのはそんなに関係ないかもしれないですけど、やっぱり同い年ってだけで嬉しいし、“何か一緒だろ?”っていう暗黙の共通 基盤っていうのが……まぁ僕が勝手に思っているだけかもしれないですけど(笑)。
 
──加瀬さんから見る熊切監督の描く世界観というのはいかがですか?
 
加瀬:人間を深くえぐる人だなと思いました。過剰な感情とか、そういうのが好きなんだなぁと。でも、挑戦したいなと思わせてくれる。今回のように理性で処理できない感情っていうのは演じてみたいと思いますし、こういうダイナミックな役に出会うこともないですし。これはやっぱり熊切監督でないと難しいかなと思いました。
 
──役柄の裕一郎はどういう感じで演じられたんでしょうか?役作りも大変だった思うんですが。
 
加瀬:うーん……こうやって言うと誤解があるかもしれないんですけど、ありのままの、裸の自分で監督の前に立つしかなかったっていう感じなんです。もちろんいろいろ調べたり、勉強したりしましたけど、結局は熊切監督を前に小細工なんて絶対通 用しないっていう思いがあったので、そのまま行って勝負するしかないなと。
 
──裕一郎のような自傷や追い詰められる状況という役はいかがでしたか?
 
加瀬:頭で理解して似たような感情を作っただけで、本当に理解しているか分からないですけど。頭ではわかりますけど、僕自身はやっぱりそ
ういうところまでいかないですし、痛いと思ったら止めてしまう(苦笑)。だからあくまでも自分の想像の範囲でやったって感じですね。ただ、リアルにやりたいっていうことは監督と言っていて。実際にはもちろん切ってないですけど、自分でカッターを持って想像してみて、“これ血が垂れたら服につくよな、そうしたらティッシュとか用意するよな”とか、カッターが錆びていたら“自分の肌の中に入れるんだったら刃を折るよな”とか。そういうのをシュミレーションして気付いて。それを監督に伝えたら、監督も「それはいいね」ってアイデアを活かしてくれて。
 
──ナオミ(小林明実)とのシーンもかなり衝撃的なのですが。
 
加瀬:僕は自分の助けにもなると思って、“殴るシーンはホントに殴ってくれてかまわないって、小林さんに伝えて”と監督に言ったら、監督がニヤニヤして、“ごめん、もう伝えてある”って。やっぱりやる気だなと(笑)。
 
──思いっきり。
 
加瀬:さすがにグーのところはやられてないですけど(笑)。まぁ、でも現場ではなるべく…小林さんは実際はかわいらしい女性なんで、自分の中にそのイメージがついちゃうとやりにくいと思ったんであんまり話してないです。
 
──家族が印象的に描かれていましたが、一緒にやられた役者さんについてはいかがでしたか?
 
加瀬:麻丘さんはとても大きな方ですごく助けられました。(祐弥役の)木崎くんはまずビジュアルがやばいんで、怖いなぁと(笑)。木崎くんがおかしなことをいうと、もうその場で信じられるみたいな。“アンテナが震えるんだ”ってあのビジュアルで言われるとちょっと、“おぉ?!”みたいな。
 
──スタッフ周りのお話も少し伺わせて頂きたいと思っているんですが。まずは共同脚本の宇治田隆史さん。
 
加瀬:宇治田さんの脚本はすごくいいですね。無駄がないというか、読むだけで勝手にこっちに感情が湧き上がってくる。初めての体験だったんですけど、台本読み終わった後、僕は汗びっしょりになっていたんですね。それくらい宇治田さんの書く言葉っていうのは入って来やすいというか、状況がイメージしやすいんです。すっごい変な人なんですけど、書く文章だけは美しいですね(笑)。
 
──宇治田さんも同い年ですね。
 
加瀬:今もすごい仲がいいんですけど、あれだけの本を書く人だからどんな部屋に住んでるんだろうと思って行ってみたら、ほとんどUFOと宇宙人とUMA関係の本しかなくて“あれ?”みたいな(笑)。「ネッシーを探しに行くのが夢です」とか言ってて……もう見ているところが分からないみたいな。だからファンタジーが書けたのかな?
 
──ファンタジー。
 
加瀬:リアルファンタジーですね。
 
──お次は音楽を担当された赤犬の松本章さん。音楽だとご一緒されることはないんですか?
 
加瀬:そうですね。でも章さんはクランクインの前から、“曲調はこんなイメージなんだけど”っていうCDを焼いてきてくれたり、現場にも何回かいらしてくれて。その都度イメージを聞いたり。僕はそのCDをよく現場で聞いていたんですけど。
 
──ちなみに赤犬というバンドはご存知でしたか?
 
加瀬:監督の映画で名前は知っていました。実際にライブとか行った事はなかったんですけど。『アンテナ』で出会ってから何回もライブに行ったんですけど、かなりのアホバンドで(笑)。
 
──その他、スタッフ周りのエピソードはありますか?
 
加瀬:本当に、全員が全員信頼できるスタッフでした。熊切監督の熱意がみんなに伝わっただけだと思うんですけど、ほんとにこの作品に一丸となって行けた感覚はありましたね。撮影の柴主さんは以前も『アカルイミライ』でお世話になっていて、今回も何度かご迷惑をかけてしまったんですけど、闇を撮らせたら天下一品の方です。録音の岩倉さんは、僕は元々の声が小さいので、音が撮りづらいんですよ。でもそれをちゃんと言ってくれて、録音の仕組みも説明してくれて。そういうのもすごい勉強になった。メイクの根本さんはすごい脚本が読める人で微妙なトーンをメイクで助けて欲しいと僕が伝えていたら、僕の役についてもすごい深いところまで理解していてくれて。
 
──お話を聞いていると、全体がほんとに熊切監督の下に集まっているんだなって感じがしますね。そんな熊切監督がプラスワンでイベントを……ところで加瀬さんはプラスワンてご存知だったりします?
 
加瀬:はい。僕は行ったことないんですけど、本音トークっていう感じの。
 
──ははは、はい(笑)。
 
加瀬:監督は絶対酔っ払わせた方がいい。酔っ払わないと何もしゃべらないですからね。すごくシャイな人なんで、酔っ払わないと多分、本音は出てこないと思うんですよ。で、酔っ払うと今度放送禁止みたいな感じになると思うんですけど(笑)。
 
──うちはハコ自体が放送禁止ですから(笑)。では、熊切監督がプラスワンの舞台に上がるにあたってのアドバイスを。
 
加瀬:アドバイス?! いやいやいや、僕がアドバイスなんて(笑)。僕の方が苦手なくらいで。監督はほんとに、お酒を飲ます、飲んでいけよってくらいですね。監督は酔っ払った時の映画の解釈がめちゃくちゃ面 白いです。『2001年宇宙の旅』の解釈とか聞いたほうがいいですね、意味不明ですから(笑)。 「2001年宇宙の旅はこういう映画だけど、あれはこういう意味だ」って言うことを話出したりするんですけど、そんな解釈聞いたことねぇみたいな(笑)。赤犬のホームページには赤犬ラジオというのがあって、熊切監督と章さんがトークしているんですけど、それも聞いたほうがいいですね。もういろいろ叫んでます。「なんで脳ミソさわっちゃいけねーんだ!」とか酔っ払って連発してて(笑)」
 
スタッフ:そういうことは全然言えますよね? その場で。
 
──全然問題ないです(笑)。では、加瀬さんから見た熊切監督の“監督”と“プライベート”の違いとは?
 
加瀬:プライベートはめちゃめちゃはじけていて面白い、ダメな人(笑)。お酒入ってないとシャイですね。入ると過激になります。だけど、現場に入るとめちゃめちゃかっこいいです。普段とはもう全然顔が違います。圧倒的現場にいる方がかっこいいです(笑)。
 
──今回は現場にいない監督(笑)が見られるということで楽しみにしています。
 
 
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