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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】大槻ケンヂ(特撮)(2003年12月号)- やっぱり80年代も青春は熱かったんだなぁ

やっぱり80年代も青春は熱かったんだなぁ

2003.12.01

 今年も一年怒濤のライブ攻勢を続けてきた特撮ですが、年末に来て二年ぶりとなるアルバム「オムライザー」のリリースが決定! しかもオーケンファンにとっては死ぬ 程待ち遠しかったであろう小説「グミ・チョコレート・パイン」の完結編、パイン編がチョコ編から八年の時を経て遂に出る! さらにさらに、ぴあで好評連載中のエッセイ「神菜、頭をよくしてあげよう」も一冊の本にまとまって発売! こりゃあ今年の年末はこいつを全部買って、オーケンづくしで引きこもるしかないぜッ!? ...ということで、もう発売日が近いというのにまだ作詞が終わってないという大槻さんに貴重な時間を割いてもらいインタビューを敢行した! (interview : 北村ヂン / シンスケ横山)

でも振り返るとやっぱりあれも青春だったんですよね

──本、アルバムのリリースと続きますけど、まず「グミ・チョコレート・パイン パイン編」について聞きたいんですが、グミ編、チョコレート編もそうでしたけど、今回も江口寿史さんのイラストが表紙なんですよね。筆が遅いことで有名な江口さんですけど、間に合ったんですか?
 
大槻:イヤー、単行本の表紙も落としてるんですよ(笑)。でも今までのイラストをコラージュしたヤツがよかったんで、それにしちゃいましたけどね。しかも、連載の方でも江口さんに扉絵を描いてもらってたんですけど、この間ロフトプラスワンで会ったら「俺、二回落としてるんだ」って言ってて。全然気づいてなかったんで、見直したら、左右逆になってるだけの絵が使われてたりするんですよ(笑)
 
──チョコレート編のあとがきでは「まだ結末を考えてない」って書いてましたよね。
 
大槻:全然考えてなかったですね(笑)。書きながらどんどん変わってっちゃうんで。でも、パイン編から初めて読んでも大丈夫なようにはなってますね。「スターウォーズ」も「マトリックス」も、「2」とかから観ても大丈夫じゃないですか。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」だけは途中から観ると全然わかんないけどね。
 
──グミ編の頃は結構自伝的要素が強い小説でしたけど。
 
大槻:自伝的な要素があったのは、グミ編とチョコレート編の途中くらいまでで、パイン編は八割は創作ですね。最初は11年前に、男のオナニーの話を書こうと思って、佐久間正英さんのスタジオで筋少のレコーディング中に三時間で20枚くらいバーって書いたんですけど、それがちょっとうけたんで連載にしようっていう話になって、それから設定を考えたんですよ。ちょうど高校生が主人公だったんで自分をモデルにしたんですけど、そんなに自伝って感じではないですね。時代設定は僕が10代の青春を過ごした80年代ですけどね。
 
──80年代っていうと、ケラさんも映画「1980」を撮ったり、トモロヲさんもバンドブームの頃が舞台の「アイデン&ティティ」を撮って、
陣内さんの「ロッカーズ」もそうですけど、やっぱりみんな青春が好きなんだなぁって思いましたね。
 
大槻:そうですね、特にナゴムの人たちは当時「青春なんて恥ずかしい」とか言いながら、実はすごくセンチメンタルで熱い青春が好きだったんですよね。80年代自体がそうだったんですけど、ナゴムってニューウェーブなところがあったんで、汗をかいたり、熱いことをしたり、青春を謳歌したりするのは恥ずかしいっていう、そういう物を否定して、もっと無機質にクールで行こうよっていう風潮があって。でも振り返るとやっぱりあれも青春だったんですよね。
 
──ナゴムの人たちって、当時はやっぱり青春歌謡みたいなものを否定してたと思うんですけど。
 
大槻:当時はケラさんとかトモロヲさんとか電気グルーヴとか、みんなで熱いロックみたいなものを鼻で笑ってたんですけど、そういう人たちが、ここにきてみんなこぞって青春プレイバックしてるっていうのは面白いですよね。
 
──それはみんな歳もとって、おじさん感覚な懐古ムードになってるっていうことなんですかね。
 
大槻:いや、僕らが10代の頃に60年代や70年代に憧れたように、今10代の人たちは80年代に憧れてるんだと思うんですよ。今思うと80年代ってバブルで、金持ちで、テクノで、白玉 シンセがバーって鳴って、ミチロウさんが豚の頭投げて…面白いじゃないですか。そりゃ憧れちゃいますよ(笑)
 
──ちょっと前まで、70年代は良かったけど、80年代なんか何にもなかったっていう風潮がありましたけどね。
 
大槻:そうそう。でもパイン編を書いている時に、やっぱり80年代も青春は熱かったんだなぁって思いましたね。この青春ベイベーな感じを是非残しておきたいって感じですね。
 
──今回のパイン編が出るまでに、チョコレート編から随分間が空きましたけど、どれくらい空いたんですか。
 
大槻:八年経ちましたね。その間に筋肉少女帯を脱退して、特撮を結成して、のほほん学校も始まって、アンプラグドでツアーなんかもして…。
 
──その間、心境の変化も色々あったと思いますが。
 
大槻:一番大きいのは主人公たちと年齢がグーンと離れてしまったってことですよね。グミ編、チョコレート編の時はまだ20代だったんでもうちょっと同化してたんだけど、今は主人公たちの兄貴分として彼らを見下ろして書くっていう感じですよね。あと、その八年間の間に色々な女性との紆余曲折もあって、そこで培われた女性感みたいなものもやっぱり反映されてますね。連載読んでた人からは「大槻ケンヂは女性差別主義者だ」とか言われてるんですけど(笑)
 
──歳をとって視点が変わっていったということですけど、歌詞の方でも年代追って読んでいくと視点の変化があると思うんですよ。大槻さんのテーマとして「世間の主流とうまく適合出来ない人」っていうのがありますけど、初期の頃は自分自信が社会適応出来ないっていう歌詞だったのが、だんだん社会適応出来ない人に対して兄貴的な視点でっていう感じになってると思いますが。 
 
大槻:そうですね。この間の河内長野のゴスロリのカップルが親殺したのなんて、ホント文通してあげたいですよ。いつでも訪ねて来いって感じですね。
 
──あれはまさに周囲にうまく適応できなくて、あらぬ方向に行っちゃった人って感じですもんね。
 
大槻:女の子の方、かわいい子なんでしょ。まだポワーンって夢の中にいるんだろうな。僕、河内長野って行ったことあるんだけど、駅前に100mくらい商店街があるだけのすごい田舎で、駅の反対側では古い民家が朽ち果ててたりするんですよ。まあある意味ゴシックでしたけどね。でも、どっちかっていうとゴシックっていうか横溝正史の世界だよね、それ。しかも関西だから、どんなにゴスで決めてても「どないや?」とか言われちゃうんですよ。そこの中での葛藤ってのは大変だったと思いますね。
 
──やっぱ田舎で変わったことをやるのって大変ですからね。
 
大槻:田舎で特異なファッションとかライフスタイルをやって行くとドンドン過剰になっちゃうんだよね。情報がなかなか伝わってこないから。80年代のハードコアパンクとかも、田舎に行けば行くほどモヒカンが高くなっていって、信じられないようなことになってたりするじゃないですか。
 
──ジュリアナとかにしても、田舎に行けば行くほど肌の露出が増えていって、山奥のディスコじゃほとんど裸で踊っているみたいな。
 
大槻:東京だと情報も多いし、そういう価値観が多様化してるからまだ大丈夫なんですけどね。ゴスの人も原宿行ったらいっぱいいるしね。
 
──まあとにかくそんな感じで、ドロップアウトしちゃってる人へ向けての歌を作ってきてたわけですけど、今回のアルバムはどんな感じなんですか。
 
大槻:まあ今もそういう感じではあるんですけど。でも最近はもう、何でも歌ってやろうとか考えてたりして。今回のアルバムなんですけど、俺の中では「SWEETS」っていう曲がバカうけで。とにかくベタベタなラブソングを歌ってみたくて、サポートベースの高橋竜さんが非常にポップな曲を作ってきたんで「これ、歌ってみようかな」とか思って。レコーディングしながら「B'zみたいだなぁ」とか思ってたんですけど(笑)。芸の幅が広がったというか、最近は色んな人が色んな曲を作ってきて、どんな曲でも詞をつけてやろうっていうのが結構好きで。「SWEETS」っていうのは、駆け落ちした二人がケーキを焼け食いするっていうベタなラブバラードなんですけど、こういうのもこれからは歌っていこうとか思ってますね。「流星」っていう曲は、プロレタリアートな無産者階級の男の子がルサンチマンを叫ぶというロック基本の熱い系の歌ですね。意外と俺、こういうのもたまに歌ってるんですけど。これまた高橋竜さんがホットな曲を作ってきたんで、これをプロレタリア・ロックにしようって思って、タイトルも吉田拓郎の「流星」から取ったんですよ(笑)。これは非常にベタなエモ系と言いましょうか、特撮の浜田省吾って呼んでるんですけどね。「SWEETS」の方は特撮で徳永英明をやろうって感じで(笑)
 
──アルバムタイトルの「オムライザー」っていうのは何なんですか?
 
大槻:「オムライザー」っていうのは、いつか僕が書こうと思っている小説に出てくる夢の乗り物なんですけど。引きこもりの男の子を救うためにオムライザーが出動して、乗務員や管制塔に世界の偉人がいて、ダリとかサキとかシド・ヴィシャスまで出てくるというちょっと不条理なSF冒険奇譚ですね。これは気持ち的にはGOGO!7188にカバーして欲しいなって思ってるんですけど。
 
──そういうのって作ってる途中で「この人が歌ったらいいなぁ」とかイメージしているんですか。
 
大槻:そうですね、昔からレコーディング中に「これ、俺よりさだまさしが歌った方がはまるんじゃないか?」とかとか真面目に言い出したりしてましたから。今回のアルバムで言うと他にも「プログレ・エディ」っていう曲はケラさんかPOLYSICSのハヤシくんかメトロノームに歌ってもらいたいと思ってたり。
 
──しかし、徳永英明からメトロノームまで…かなりバリエーションに富んだアルバムになってるんですねぇ。
 
大槻:僕はもうなんでも屋ですからね。曲が来て歌えって言われたら歌いますよって感じで。特撮でもサウンド面は皆さんにおまかせして、何にも言わないようにしてますね。歌詞書きや他の仕事もあるんで、スタジオにもあんまり行かないし。たまにスタジオに顔出すとメンバーに「今日は大槻ケンヂが来てるじゃないですか」とか言われるんですよ。
 
──本当に歌入れの時くらいしか行かないという。
 
大槻:歌入れも本当は行かないでデータだけ入れて出来るようになったらいいんですけどね。レコーディングが大嫌いなんですよ。
 
──大槻さんはいつもライブが本当一番好きって言ってますもんね。
 
大槻:そうですね、去年は50本くらいやって、今年もかなりやりましたからね。でも、来年はちょっとライブを控えて、他に何か出来ないかなとか思ってるんですけどね。最近ちょっと体が持ちません系の疲れが出てきちゃってるんで(笑)、目指せニューロティカ、目指せミチロウさんだったんですけど、ミチロウさん程はライブ中毒じゃなかったんだなぁ。僕、毎年一年の目標をつけてるんですけど、2003年の目標は「小鳥を飼う」とか「プロレス団体設立」とかメチャクチャなこと書いてあるんですよ、子供かよっていう(笑)。そこに「今年もライブ何十本」とか書いてあったんですが、2004年はちょっとライブを控えて、何をやろうか考えてますね。本とかも書きたいしなぁ。もちろん、特撮的にも何かドーンとやりたいなぁと思ってるんですけどね。2003年は藍坊主ともやったし漁港やriceともやるという、特撮はもう全方向性のバンドなんで、どんな対バンが来てもオーケーって感じで。
 
──小説の映画化の話なんかも色々出てきてるみたいですけど、自分で映画を撮りたいとかはないんですか。
 
大槻:ちょっとそれは…集団作業が苦手なんで。自分の頭の中にあるイメージをそのまま商品に出来ないということは、もうバンドでイヤっていうほどわかってるんで、宅録打ち込みの人以外はどうしても自分の頭の中で鳴っている音通りにはならないじゃないですか。映画ももちろんそうですからね。小説なんかは、自分が思ったとおりに出来るんで楽しいんですけど、それを映画にするってなると絶対思ったとおりにはならないですから。あとは僕、映画の現場が嫌いなのね、早起きが出来ないから。朝五時に渋谷パンテオン前とかに集合したくないの。自分なりのライフスタイルがあって、夜中は仕事しないとか決めてるんだけど、映画だと集団作業だから徹夜とかしなきゃならないでしょ。ホント深夜はダメなんですよ。今回のレコーディングでも一曲だけ12時過ぎた後に歌入れしたんだけど、全然音がとれないんだよね。元々音がとれないのに、ますますとれなくなっちゃって。……だから集団作業はやりたくないですね。
 
──自分の作品を人が撮るっていうのはどうなんですか。
 
大槻:どうぞご自由にって感じで、それは楽しみですよね。
 
──別物として観てるってことですかね。
 
大槻:ただ「シャインング」っていうとみんな原作よりも映画の方を思い浮かべちゃうじゃないですか、そうなってると原作が死んじゃうから、それはちょっとイヤですね。あと、小説が映画化されたりすると、文庫本の表紙が映画の写真になったりすることがあるじゃないですか、あれはやめた方がいいよね。
 
──あと、本の方でもう一冊、エッセイ集「神菜、頭をよくしてあげよう」も出ますが、筋少の曲で「香菜、頭をよくしてあげよう」っていうのがありましたけど、なんで字が変わってるんですか。
 
大槻:最近、大槻ケンヂは香菜ちゃんのファンだって公言してるんで、そっちの「香菜」と混同されちゃうと悪いかなっていうのがあったんで。この本は、ぴあに連載してたコラムをまとめてるんですけど、それ以外に未発表のエッセイや、書き足しとかもしているんで読んでもらいたいですね。今年の年末は本は二冊も出るしアルバムも出るしで、オーケン一人いれば外に出なくてもオッケーってことで(笑)。まああんまりひきこもってるのも良くないんで、たまには外にでないと、という時には特撮のライブにも来て下さい! あとはクリスマスイブにはのほほん学校もありますしね。
 
──クリスマスのほほん学校は何回かやってますけど、行き場のない男子も女子も本当に救われてるんだろうなぁ~って思いますよ。
 
大槻:彼氏、彼女のいない人たちにとっては一番辛い夜ですからね。イブの夜に、みんなで新宿歌舞伎町に集うっていうのもいいじゃないですか。
 
──家で一人でいるのはイヤだし、でも行くところないしっていう人に来てもらいたいですよね。
 
大槻:そうですね、みなさん来て下さい。あ、そうだ、2004年はのほほん学校ツアーもやりたいんですよね。「ザ・スライドショー」みたいな感じで。
 
──「ザ・スライドショー」はハワイでもやってますからね。
 
大槻:宮崎に行きたいんですよね。南国らしいんで! 僕、飛行機乗れないから、飛行機を使わないで行ける一番暖かい所っていったら宮崎なんですよ。いきなり宮崎でのほほん学校やったらビックリするだろうけどなあ。
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