Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】鈴木美潮(2003年11月号)-好きとか嫌いとかじゃないのね。仮面ライダーは、私にとっての生き方の価値基準なの。

好きとか嫌いとかじゃないのね。仮面ライダーは、私にとっての生き方の価値基準なの。

2003.11.01

最近のプラスワンの特撮イベントは少々違う。その界隈の住人ではなく、違う畑からの人で運営するケースが増えたことだ。その一人は、政治記者でありながら特撮好きの鈴木美潮。彼女のイベントは毎回ソールドアウトで、且つマニアからもそうでない人の双方から支持されている。その所以は政治記者で培ったバランス感覚と特撮に対する愛情の深さなのだろう。政治と特撮。現実と夢ぐらいに遠く離れた世界のような気がするが、その二つを内包できる彼女は一体どんな心の持ち主なのか。現実的なのか、夢みがちなのか。そんな謎と彼女の魅力を探るべく、何を想って特撮好きになったのか話しを聞いてみた。 (all text:斉藤友里子)

好きとか嫌いとかじゃないのね。仮面ライダーは、私にとっての生き方の価値基準なの。

──単刀直入に聞きますが、なぜ特撮ヒーローが好きなのか。そして仮面 ライダーに対する偏愛ぶり。いったいそれは美潮さんにとってどういうものなのでしょうか。

鈴木:好きとか嫌いとかじゃないのね。仮面ライダーは、私にとっての生き方の価値基準なの。例えば、「この話を表に出そうか出すまいか」とか微妙な時ってあるじゃない。あと、記事書くにしても片方に利益があっても、片方を傷つけることになるとか。最終的におてんと様に恥ずかしくないことをするってことなんだけど。利害関係の意識を入れるとか、物事を変にねじ曲げたりしないとか。ライダーが現れて頭をなでてくれるか、「このバカモン!」と言ってぶん殴られるか、を考える。いつかどこかで仮面 ライダーに出会った時に、恥ずかしくない自分でいたいの。

──会ってるじゃないですか。

鈴木:それはや藤岡弘。や佐々木剛であって、本郷猛と一文字隼人じゃないでしょ?

──そのあたりが美潮さんの希有な部分の一つだと思うんですよ。非常に現実的でありながら、夢を求め続けることができるっていう。美潮さんの職業は政治記者ですけど、その世界はギットリとした現実というか、夢という世界から極北でしょう? どう考えても仮面 ライダーはいなそうです。そんな世界になぜいるのか。もしかして美潮さんはいつか会う仮面 ライダーのため「悪と戦う」ことを目的にして、政治の世界に入ったんじゃないかって思うのですが。

鈴木:そんなキッパリ「悪と戦うためです」ってシラフで公言すること少ないけど、気持ちはそう。政治家になろうって思ってた時期もあった。でもね、ヒーローは独りでも戦えるけど、政治家は一人では戦えないの。そこは数の問題だから。ヒーローが変身して戦うのと違って、現実の政治には凄い長い時間がかかって一人が二人になってそこから十人が百人になって、というふうになってる。ある種アイドルとかのように票という人気の上に立ってる職業で。だからいくら正しいことでも人気が落ちるようなことは言えない。その人はその時点で「変身」できなくなっちゃうワケでしょう。それに、現実の世界は必ずしも善と悪とに単純に割り切れない。だから政治家は、決定的なことがなかなか言えなかったりするんだよね。

──何人までをオルグしていくかが勝負であり、その際には変な利害関係も発生しやすい。だから、政治家にならずに政治記者になった?

鈴木:そう。

──政治記者である時、仮面ライダーに「バカモン!」と言われてしまう具体的なことを挙げると利害関係の他にある?

鈴木:本来の自分の使命を忘れてはいけないってこと。取材目的で、政治家や人と会っているわけでしょ。深く入り込むとその人のために働きたい、かばいたいって気持ちに往々にしてなるのだけど、それは記者じゃないじゃない。相手に対して思いやりを持つことと、知った事実を書かないってことは別 モノだから。
──己の運命を背負い、優しさを失わず、全てに公平である。うん、神の眼、第三者的な目線が全て仮面 ライダー。

鈴木:もう「神」だね。もう、宗教と言って過言ではないかも。

──つまり大人の、いや人のかくあるべき姿が仮面ライダーであると。

鈴木:うん、うん。小学校四年生ぐらいの時に、ふと不思議に思ったことがあるの。みんな男の子も女の子もショッカーや悪の組織は敵だと思ってるでしょ。ショッカーの卑劣な作戦を見るたんびに、「許せん!」って思って仮面 ライダーを応援する訳じゃない。ところが私たちはいずれ大人になる。大人になった時に今「許せん!」って思っている人間の何人かはやっぱり殺人を犯し、何人かは暴力団に入り、何人かは経済犯罪を犯し、と。でも「みんなショッカーみたいなことをしてるんだよ」って思えばそんなことしないだろうって。でもしてしまうのは一体どうしてなんだろう? 精神、マインドがどこで歯車が狂ってしまうのかなって。

──苦しい時に出口をどこに見ちゃうかが焦点のような気がします。

鈴木:そうかもしれない。一番苦しかった出来事に、渡米した大学時代があったんだけど。もう勉強のレベルも違う訳。そのせいもあってホームシックになっちゃってね。帰りたい帰りたいって毎日思っていて。そこで仮面 ライダー15周年を機に詩集を作るに至るのだけど。で、その時に文通していた平山亨さんにも寂しいです的なことを送ったりしたの。当時メールなんかなかったから、何十通 も書簡のやりとりがあってね。みんな「大丈夫? 頑張って。嫌だったら帰っておいで」とか慰めてくれる手紙をくれるのだけど、平山さんは違ったのね。「何をやっとる!」的なカツを入れられた。私にとって仮面 ライダーの権化でもある存在だし、第二の父親的存在でもあるのね。ダディって呼んでるくらいだから。それでハッと目が覚めて毎日12時間以上勉強しはじめたの。平山さんがいなかったら今の私もないし、ここまで仮面 ライダーを追っかけていたかわからない。

──そうして、日本テレビ生放送で「特撮ヒーロー好きの政治記者」と紹介される程の仮面 ライダー伝道師になったと。いつか出会う日のために。

鈴木:私が死んだ時は羽の生えた仮面ライダーが迎えに来るかな。

──来ますよ、きっと。

鈴木:そうかなぁ。来るかなぁ。

──うん、きっと来ますよ。死ぬ瞬間ぐらいには、たぶん。

このアーティストの関連記事
休刊のおしらせ
ロフトアーカイブス
復刻