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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】いずみちゃん(2003年6月号)- プロレス体質、暗黙の了解

プロレス体質、暗黙の了解

2003.06.01

トランスジェンダー一一性同一性障害者のうち、解剖学上の性とは逆の性での社会生活を行うが外科的手術までは望まない人。広義には、これにトランスセクシャル・トランスベスタイト(異性装者)を含む総称。TG。 辞書で引くとこんなことが書いてある。 乱暴にかみ砕いた発想だけれど、トランスジェンダーとは、生まれもった性より自分の好んだ性を選択して、生まれ持った自分となりたい自分の理想像。この双方の矛盾を、考えと皮膚感覚を持って向き合う人を指すのではなかろうか、と私は思う。二つの嗜好と思考。毎日、毎分これらが自分の内で天秤にかかる。一つずつ考えたら、途方もない選択を繰り返すことなのかもしれないとも思う。 この繰り返される選択をして戦おうとしている、いずみちゃん。時に感情と思考の間に起こるバーストに悩まされるだろう。好奇な眼で見られることもあるだろう。しかし、逃げずに戦う人間は美しい。そんな、いずみちゃんが本を出した。『トランスジェンダリズム宣言』。"宣言"。自らを肯定する作業を外にもっと向けようとしているのだろう。 この本の発行を祝して、いずみちゃんにお話を伺ってみた。 (text.斉藤友里子)

プロレス体質、暗黙の了解

──イキナリだけれど、いずみちゃんって、その場のルールを守らない人間って嫌いでしょう?

いずみ:嫌ですねぇ。TPOってあるじゃないですか。集会でも、ネットでも、イベントでもさ。そのルールに乗っ取って楽しめない人や状況は好まないですねぇ。そう、プロレス体質なんです。

──攻めと受け身のルールがある上でのファイトが心地いいのかな。

いずみ:そうですね。暗黙の了解っていう感じが好きなのかもしれない。相手が「こういくよ」って時に、どういう受け身を望んでいるのか言葉を使わずにルールを知る。こういった行為が楽しくて堪らないですね。

──「暗黙の了解」が重要?

いずみ:うん。暗黙の了解は重要。言葉を交わさずに、人間の思考や意図を読みとるっていうのがいいじゃない。わびさびじゃないですけど。書き込みとかでもさ、ここでこう行くのが筋だろう、っていうのを無視して書いたりしてる奴をみると許せん、って思っちゃうんですよねぇ。

──えーと、地雷かもしれないけど。「小倉あやまれ友の会」(かつてロフトプラスワン席亭・平野悠が立ち上げた会。その会の実行にいずみちゃんは携わっていた)の活動の過程でね、悠さんに怒ったことがあったでしょう。とても女性的な怒り方をするなぁと思ったの。でも怒りの基盤はその場の暗黙ルールが崩れたってことだよね。

いずみ:ちょっと体力的にも時間的にも切迫していたっていうのがあるけど。平野さんは規格外の人でしょう。いい意味でも悪い意味でも(笑)。 それを目の当たりにした時に、自分がどんな反応をするのかよくよく色々考えるきっかけとなった出来事だったんで。あと野生のカンには勝てない、と痛感。

──シチュー作っていたら、カレー入れられちゃった、みたいな。言論やルールがカンなり拡大解釈なりで、設定されているはずのルールが無効になるのに拒否反応が出ちゃう?

いずみ:シチューにカレー(笑)。そうそう、それ凄い嫌いなんですよ。プロレスするには枠が必要なんですよね。

──逆マトリョーシカじゃないけど、小さな木枠から大きな木枠へ枠の大きさをその状況ずつ大きくして当てはめて、その状況をみていく作業ですかね。こういう作業が、いずみちゃん好き?

いずみ:そうでありたい、そういう対話方法を望んでいるんでしょうね。

言葉は裏切る?

──なぜ?

いずみ:言葉というものに不安や不信を覚えているからでしょうね。

──だから、暗黙の了解が含まれた対話を尊ぶ?

いずみ:そうでしょうね。きっちり言っている言葉でもそれは全てではないし、自分の言葉でも裏切ることがあるし。プロレスという戦いをする中で、それ以外の対話を感じることにうれしさがあるのかもしれない。

先を考えてしまう記憶装置

──いずみちゃんが、こうして自分が好むありのままの自分を外に向けて自分を、と考えはじめたのはどんなきっかけなんですか?

いずみ:パソコン通信をはじめてじょじょに外に出ていったんだけど、あとプラスワンもね。でですね、直接のきっかけではないんですけど、強く記憶に残ったエピソードはあるんです。  呑み会の帰りに、流れで家呑みすることになったんですよ。で、呑むか!ってテレビをつけたらドキュメンタリー番組やっててですね。エイズになった同性愛者を死ぬ まで追った映像なんです。それをこれからワーイって時に観てしまった。その時、まだトランスしてなくて、自分がこんな騒いでるのにこの人はこうやって生きたんだ、と思うと自分が情けなくて。もうわんわん泣いちゃった。涙が止まらなかった。あれが、今の私を動かす一つの記憶になってると思う。

──先を考えてしまう、そんな記憶装置になる出来事だったんですか?

いずみ:うん。これから先、私は私として生きていくことってなんだろうって。それを考える時に思い出す映像かもしれない。なんて、真面 目なこと言ってますけど、自分をさらしてナンボですよ。

──アイドルのおっかけも、トランスジェンダーへの追求も全てを内包して様々な選択肢を作り、選んでいける。そんな人だ。

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