全てのロックンロールがイコール革ジャン&リーゼントじゃないぞってこと
──いきなりですけど、MABO&THE88の「88」ってなんなんですか?
MABO:深い意味はないんですけど、ピアノの鍵盤の数が全部で88個って感じで……。とにかく、ライブが決まって、バンドの名前を決めなくちゃならなくって「もういいや、これで!」って(笑)。最初は、こんな本気でやるバンドになるとは思ってなくって、遊びでちょっとやってみるかっていう感じのバンドだったんで、パッと決めちゃったんですけどね。
──とりあえず仲間集めてライブやってみようか、くらいの。
MABO:この人(DAISUKE)なんて最初エレキギターを持ってなかったくらいですから。
──え、そうなんですか!?
MABO:ドブロとかフォークギターしか持ってなかったんで。「バンドやろう」「何やんの?」「ロックンロール」って言ったら「えっ! エレキギター持ってないよ!」って。で、まあやることになってからとりあえずギターを買って。せっかくギターも買ったし、練習もしたし、一回で終わりにするのももったいないから、もうちょっとやろうかっていう程度の所から始まってるんですよ。
──エレキギターを持ってなかったってことは、あんまりロックとかはやったことがなかったんですか。
DAISUKE:前はやってたんですけどね。もうやるのやめようって、売っちゃったんですよね。
──え、それはなんで。
DAISUKE:めんどくさいから(笑)。
──めんどくさいからって(笑)。MABOさんのピアノっていうのは、やっぱり最初クラッシックから入ったんですか。
MABO:イヤ、そういうわけじゃないですね。
──昔ピアノやってた、とかじゃないんですか。
MABO:それが、全くやってなかったんですよ。だからエリーゼのためにも弾けないし、ハノンとかバイエルとかも全然わかんないんですよ。
──楽譜は読めるんですか。
MABO:全然読めないです(笑)。
──へ~。じゃあ本当にロックンロールピアノから入ったんですね。
MABO:うん、だから自分でレコードを何度も何度も聴いて、ちょっとづつちょっとづつ練習して、でも逆にそれがよかったのかなって思いますね。人に教わってたら途中でイヤになって逃げ出してたろうから。
──でも、普通ロックンロールをやろうって思ったらピアノをやろうと思わないじゃないですか。どうしてピアノだったんですか。
MABO:最初に入ったバンドが割と大所帯のバンドで、「ピアノいないし、お前やれよ」って。
──え、でもその段階では全く弾けなかったんですよね。
MABO:まあ、ちょっとくらいは弾けたんですけど、でもそんなもんじゃ全然どうにもならなくって、呆然としてましたね。最初の一年くらいは毎週練習に行くのが怖くって……。
──ロックバンドの中で、キーボードとかシンセの音色の一つとしてピアノを使うことは結構あっても、ピアノっていうものをメインで据えてやってるバンドって少ないですよね。
MABO:まああんまりいないですよね。やっぱりギターのアンプがデカクなって、ドンドンパワーが出てきて、ピアノが負けてっちゃったってことでしょうね。生のピアノじゃマイクで取るのにも限界があるし。
──で、オルガンとかに流れていったんでしょうね。でもやっぱ絵的にピアノが入ってるとすごい格好いいですよね。
MABO:みんなもそういうものが好きなはずだと思うんだけど、実際にそういう風にやってる人っていないですね。
──色々とめんどくさいこともあるでしょうしね。
MABO:うん、あとピアノが旨くなってくと、あえてロックンロールに限定しないで、色んな事をやりたくなっちゃうんだと思う。ブルースとかジャズ畑だと表立ってすごいピアニストがいっぱいるけど、ピアノでロックをやろうっていう人はあんまりいないんじゃないですかね。まあ、やればみんな出来るんだろうけど……。
──以前はピアノと共にウッドベースがあったわけですけど、MINAMIさんが入ってからはエレキベースになりましたが、その変化にはどんな理由があるんですか。
MABO:バンドをやっていく中で、昔にピアノが消えて行ったのと同じに、ウッドベースにも限界があったんだろうな~って思った。
──ウッドベースはウッドベースの音にしかならないですからね。
MABO:で、もうちょっといろんなものを求めて行くなら、エレキベースの方がいいんじゃないかなってことで。……ウッドベースはツアーに出るのも大変だし(笑)。乗用車の上にウッドベースをヒモでくくりつけてツアーしてたりっていう人もいますからね。
──サーフボードじゃないんだから。
MABO:そもそもこの人(MINAMI)はベーシストじゃなくって、ギタリストでボーカルをやってた人なんだけど、ずっとつき合いは長くて、感覚的なものは近いだろうからやってけるだろうっていうのはありましたね。まあ技術的なことは後からついてくるだろうからベースが弾けるという事より感覚的なこと、人間的なことを重視したかった。こいつなら一緒に出来るかなって思ったんですよ。
MINAMI:オレも全然ベースとか考えてもいなかったんだけど、彼らとならベースでやってもいいなって思ったんで。昔から尊敬してたし、価値観が似てるっていうのも感じてたし。だから、じゃあやってみようかなって。
──まあ、音楽性も似ていたわけですよね。
MINAMI:もともと好きな音楽はみんな似てて。50'sのロックンロールだとか、黒人のルーツ的なブルースとか好きで。激しいものそんなには好きじゃない、とかそういう所で価値観は似てるんじゃないんですかね。
──曲はすごいポップですよね。ロックンロールと共にポップス的な要素も入ってて、要は歌モノですよね。
MINAMI:そうですね。
──で、わりとこのテの音楽ってファッションにしろ何にしろ、様式美に走りがちじゃないですか。それを素の感じでやってるのが面 白いな、と思いましたね。
DAISUKE:そういうのは似合う人と似合わない人がいるからなぁ~。
MABO:イヤ、オレは似合うんだけどね(笑)う~ん、でも「まず格好から」っていうのじゃなくてもいいのかなとは思いますね。それよりも、単純に色んな人に音楽を聴いて貰いたいんですよね。
──スタンス的にもっと軽く「これじゃなきゃダメだ」とかじゃなくて、もっと柔軟な姿勢でやってるんですかね。
MABO:昔は、そういうことをずっと求めてやって来たんですけど、そうなっちゃうと行く先は決まってるくると思うんですよ。形を追っていって、「こうじゃなくちゃいけない」とか「こうあるべき」とかっていう方向にどんどん向かってくと、絶対どこかで行き詰まるだろうし。
──う~ん、だから一応方向性としては50's的なことをやってるんでしょうけど、決して「古い音楽」とか「古いこと」をやってるわけじゃないんですよね。
MABO:もちろん古い物も好きで、色々聴いてきてるんだけど、そういうものをもう一回自分たちの中で再構築して、今聴いても通 用する物を作りたいなっていうのはありますね。
DAISUKE:僕が思うに、このバンドってみんな50'sの音楽が好きなんだけど、でも「50'sはこうだろう」とか「こういう音楽やんなくちゃいけない」っていうことは考えてないで、自分らがやりたい曲を作って、それを格好よくしているだけで無理に50'sっぽくやってるわけじゃないんですよね。
MINAMI:まあそう思ってても、みんな聴いてきたものがそういう音楽だから、自然にそれが残るだろうからね。
──意識的に~っぽいのっていうやり方じゃないってことですよね。
MABO:そういうやりかたじゃ面白くないからね。曲を作る時に「~ぽいの」って言っちゃった時点でダメじゃないですか。練習の段階とかで「あの曲のあのフレーズっぽいの」とか言うことはあっても、全部が全部そっちに向かっちゃったらオリジナリティーなくなっちゃいますからね。
DAISUKE:一般的に50'sって明るくてアメ車が走っててってイメージじゃないですか。でも、アメリカ行った時に、実際に50年代にTEENAGEだったおばあちゃんと話したことがあって「50'sってどうだった?」って聞いたら「あんな時代は最悪だった、お金がなくって」って言ってたんですよ。
MABO:それ、その人だけじゃないの(笑)。
DAISUKE:まあ、そんな感じで必ずしもわからないじゃないですか。だから、あんまり50's、50'sって言わない方がいいんじゃないかな。別 に50年代の人じゃないし。
MABO:うん、だからオレらも服とかも普通っぽい感じでやってるしね。
OH!TA(TEENAGE HEAD):ロックンロールをやろうっていう時に、とにかく革ジャンじゃなきゃっていうのは間違いだからね。ロックンロールを演奏する時に、自分を出せる、思いっきり楽しめるっていうのに必要なのは革ジャンじゃなくって、ロックンロールが大切なんだからね。もちろん、ロックンロールをやるのに革ジャンが必要な人もいるし、スーツが必要な人もいるし、MABO達みたいに普通 っぽい格好でいい人もいるし。だから、音楽が一番なんだよね。大事なのは自分たちをいかに表現できるかってことなんじゃないかな。
──ファッションなんか関係ないぞ、と。
MINAMI:い、イヤ~、一応それなりにはこだわってるんですけどね(笑)。
DAISUKE:全てのロックンロールがイコール革ジャン&リーゼントじゃないぞってことですよ。50年代だって色んな人がいるわけですから。
MABO:まあ、それなりに色々とこだわりはあるんだけど、それがパッと見て分かり易い所じゃないってことですかね。
──う~ん、こだわってる事はあっても、それをあんまり押しつけがましい感じじゃ なくやってるって感じですかね。
MINAMI:そうですね。肩肘は張らない感じですね。
MABO:うん、自然体で行きたいですね。