"待望の..."という言い回しがこれ程当てはまるファースト・フル・アルバムも他にないだろう。待ちに待ったHAWAIIAN6のフル・アルバム...その名も『SOULS』が、遂に、遂に、発売される! 収録された全14曲の澱みなく流麗な至上のメロディ、誰しもが抱える感情の揺らぎを的確に捉えた歌詞の完成度、細部にわたって注意の払われたアンサンブルの妙味...これはもう尋常ではない。この大変な充実作を引っ提げ、今秋、彼らは全国37ヵ所に及ぶ長期ツアーに出る。巡業初日、晩夏のシェルターから彼らの新章が始まる!(interview:椎名宗之)
目指したのは“自分たちらしい”と直感的に思えるメロディ
──今度の『SOULS』、とにかく凄まじい会心の出来でブッたまげました。
タイヤ:レコーディングが終わった日に帰りの車のなかで、「これだけ頑張ってイイのができたんだから、売れなくても全然後悔ないよね!」っていう話を皆でしたんですよ。それくらい出来には満足してます。
──“曲は短く、メロは良く”っていうHAWAIIAN6のスタンスは不変ですね。
ディーゼル:それは今回に限らず、単独のシングルを出した時からずっと意識してやってます。メロディは常に、“いつのCDでも僕らなりに”っていうテーマで3人で判別 してやってますね。歌モノはやっぱり、メロディが絶対ですから。いろんなCDを聴いて目新しいことを覚えると、レコーディングの時にいろんなことをついやりたくなるじゃないですか。それをしないように、しないようにずっとやってきたんで。サウンドのなかに目新しいものを採り入れても、メロディのなかにそれを組み込むことはしないんです。どんな曲でも、聴いた時に自分たちらしいメロディだと直感的に思う作りにしようと。作ってきては聴いて、作ってきては聴いて、何度も試行錯誤して…。
──ジャズのスタンダード「AUTUMN LEAVES」(枯葉)のカヴァーが異色の出来ですけど、他の収録曲にもうまく溶け込んでますね。
ディーゼル:4年くらい前にライヴで演ってたんですよ。その当時に何回か横山(健)さんに聴いてもらったことがあって。今回アルバムをプロデュースしてくれるっていう時に、「昔演ってたあの曲、イイじゃねぇか! 何で演んないんだ?」みたいなことを言われて、じゃあ折角だし演ってみようかって。
──「AUTUMN LEAVES」の持つスタンダード感みたいなものがどの曲にもあるし、胸が締め付けられるような切ないメロディ・ラインは確かに昭和歌謡の要素も感じさせますよね。 ディーゼル 僕ら、世代的にはバラバラなんですよ。僕が30でタイヤが26、クラッチが23なんで。僕が唯一そういう昭和の歌謡曲はリアルタイム…っていうか、ちっちゃい頃に見てたテレビで流れてた。
──松田聖子とか?
ディーゼル:あの辺はイメージにないんですよ。バンドに反映させる時に考えたのは、80年代の進化したアイドルとかじゃなくて、キャンディーズとか…。あの辺の文化の終わりは僕のなかで寺尾 聡で終わってるんですけど(笑)、あそこまでですね。そこがこのバンドに自分が一番望んでいる部分というか…。他の2人はどうなのか判らないですけど、僕はイメージとしてはそういう感じです。
──タイトルの“SOULS”には、文字どおり今の自分たちの“魂”を音に封じ込めたという意味があるんですか?
ディーゼル:いや、そういう意味でもなく…。ずーっと決められなくて、レコーディング中に付けたんですよ。今回、本当に気持ちよくやらせてもらえたし、このアルバムに関わってくれたいろんな人たち…こうしてインタビューをしてくれる人も含めて、皆の“SOULS”なんです。手を入れてくれた人たち皆の気持ちをタイトルに込めたんですよ。
──なんてイイ人たちなんだ(笑)。横山さんとのやり取りはどんな具合で進んでいったんですか?
ディーゼル:僕らの意見を汲み取るというよりは、同じバンドのメンバーというノリでやってくれましたね、音を録る段階までは。「こんなのどうだ?」「あんなのどうだ?」って感じで。リハは同じメンバーみたいに「今のリズム良かったね!」「今のはちょっとリズム崩れたよ!」っていう具合に進んで…。で、レコーディングの時になって初めて、メンタルな面 も含めて“プロデューサー”として関わってもらって。ああせい、こうせい、っていうのは別 にないんですよ。自分が気持ちいいと思えるものをまずは録ってみる。その後のジャッジは、横山さんが「ここはもうちょっとこうしたほうがスピード感が出るんじゃないか?」とか言ってくれる。そんな感じでした。
──常に3人と同じ視線で。
ディーゼル:終わった後に聞いた話じゃ、わざとそうしたらしいですけどね。横山さんのレヴェルで物を望んでも僕らにはクリアできないだろうし、「いろんなことをお前らに言っちゃったら固くなるだけだから、笑かすほうに集中した」って言ってましたよ(笑)。僕らはまだレコーディング慣れしてないから、ガーッと言われたらギュ~ッとなっちゃいますからね。ただでさえギュ~ッとなってるのに(笑)。
──レコーディングはどれくらい時間を掛けたんですか? ディーゼル 録り物は全部で7日間くらいでしたね。休みもなく、間をあけずに集中して。「太陽はいつもお前を見ている/光が在れば影は必ず存在する」(「LIGHT AND SHADOW」)とか「止まない雨なんて無いんだよ」(「YOUR SONG」)とか、訳詞を読むと普遍的で前向きですよね。無条件なポジティヴさじゃなくて、底辺に直面 した上での前向きさというか。歌詞は主にどなたが?
クラッチ:はい!(と挙手) 普遍的というか、言ってみれば当たり前のことじゃないですか。それを自分なりにいろんなフィルターを通 して書き上げたというか。
──これだけ実のある歌詞を日本語で聴きたいという気も個人的にはするんですけれども。
クラッチ:日本語っていうのは、このバンドを始めた時から頭になかったことなんで。これからも別 にそうしようとも思ってないし、日本語だと伝わりすぎちゃうところがあって…。
──確かにこの流麗なメロディには英詞のほうが化粧ノリがいいってのはありますね。
ディーゼル:そういうことですね。
やりたかったことが叶って挑戦が始まる
──レコ発ツアーは全国37ヵ所、3ヵ月に及ぶヘヴィなものですが、初日がシェルターなんですね。
タイヤ:やっと出た初めてのアルバムのツアー初日ってことで、温かい目で見てほしいですね(笑)。
ディーゼル:自分たちの挑戦っていうか…やりたかったことなんですけど、やりたかったことが叶ったから終わりじゃなくて、やりたかったことが叶ったから挑戦が始まる。そういうツアーの初日ですね。僕らも凄く挑戦的にライヴを演りたいし、見どころが一杯あると思うんで、遊びに来てくれたら嬉しいです。
クラッチ:今2人が言ったことですべてなんですけど(笑)…楽しくやれればいいなぁと。
ディーゼル:九州・四国はほぼ丸ごとそうだし、東北でも行ったことのない所が多いので楽しみですね。短いスパンでツアーに出る時はいろんなことが楽しいんですけど、今回は長い日程だから体調管理とかが大変なんですよ。でも、初めてやる所の空気を楽しむのが一番じゃないかと。
──ツアーの折に地方のレコード屋には必ず行くとかありますか?
ディーゼル:必ず行くようにはしてます。会場の近くにあればなんですけど。「連絡してたHAWAIIAN6なんですけど…」って(笑)、挨拶に行ける所は行けるようにしてます。自分たちのCDがどう置かれてあるのかっていうのが興味あるんですよ。“あのなかに混じるとどんな色に見えるのかな?”って。それと何より、現場でCDを手に取ってくれてる人たちの顔を見れるのが純粋に嬉しいんですよね。
──今度のツアーで「やっと生でHAWAIIAN6を観れる!」っていう地方のファンの方のWEBの書き込みも多いですよね。
ディーゼル:僕、ネットは全然ダメなんですよ。バンドのオフィシャル・サイトもないし。
──ファンの方が主宰のサイトはありますよね。
ディーゼル:あれは僕たちの友達がやってるんですよ。ファンから質問があっても、僕らのほうへは取り付けないっていうのを約束で。
──それは何か理由があるんですか?
ディーゼル:いろんなことがあるんですけど…やっぱり文字っていろいろと誤解が生まれるんですよね。直に(ファンからの)言葉を聞けるのはある種嬉しいことなんですが、必ずリアルタイムで聞けるわけではないじゃないですか。リアルタイムで返事できる時もあれば、そうじゃない時もあるから、「俺は質問したらすぐ返ってきたけど、お前は来ないんだ?」みたいなことにもなるし…。そういうのをできる余裕が今のところないなら、いっそのこと最初からやらないほうがいいんじゃないかと。だから、“望んで(情報を)調べてくれるんであれば…”っていうスタンスですね。昔ってそうだったじゃないですか? フライヤーにある細かい情報を自分で調べて、そのバンドを追っ掛けるっていう。僕はああいう姿が凄く好きなんで。僕がライヴハウスに通 い始めた頃は、そういうノリでしたからね。自分が好きなバンドのフライヤーを今貰って帰らないと、次に貰えるのはいつになるか判んない、みたいな。フライヤー1枚にも愛着がありましたよね。WEBに関しては、何となく後々になって“やらなきゃ良かったな”って思いそうな予感があったんですよ。周りのバンドがやってる姿を見ても凄く大変そうだし…。それが第一でしたね。友達がやってるあのサイトはライヴのスケジュールが見られるじゃないですか? “それだけでも上等じゃないか?”って。あとは何も要らないんじゃないかと。何か話したいことがあれば、ライヴが終わった後に「良かったよ!」とか直接声を掛けてくれればいいし。そしたらこっちも「ああ、どうも!」って返事するし(笑)。
──そこまで明確なヴィジョンがあるのはご立派です。
ディーゼル:自分たちの柱っていうか、何をすべきで、何のためにやってるのかっていうことが、去年の年末に物凄い数のライヴをやって見えてきたんですよね。健康面 や精神面を保てなかったり、気持ちのなかで割り切れない不本意なライヴもあったんです。でも、このアルバムをきちんとしたものにしたかったからこそ、そんなダメな経験をしてきたんだと今は思うんですよ。だから年末のツアーは凄い勉強になりましたね。…まぁ、僕らもフラつきながらやってます。もう、落ちていく時は「どこまで落ちるんだろう?」ってくらい落ちるし、上がる時は「お前、それ上がりすぎだろう!」って空回りするまで上がるし(笑)。