1980年代初頭、ストレイ・キャッツ、ロカッツ、レストレスらの登場により、50'sロックンロールを起源とした「ネオ・ロカビリー/サイコビリー」と呼ばれる一大ムーヴメントが巻き起こった。それは単なる50'sリバイバルではなく、70年代後半のパンク・ムーヴメントに直接呼応した、全く新しい最新型のロックであり、世界中の多くのティーンエイジャー達はこの新しい音楽/ファッション/ライフスタイルに触発された。そして極東の日本においても、ストレイ・キャッツ達の蒔いた種はあちこちで芽を吹き、その3つが1998年、RETRO GRETIONという3ピースバンドとして結実した。あえて時代に逆行(RETRO-GRESS)することで、ロックの伝統(LEGEND)から多くの財産を現在に持ち帰ったRETRO GRETIONは、現在の音楽シーンにおいて最もイカしたロックンロール・バンドといえるだろう。50'sの夢(ロケット)と80'sのスタイル(12インチ)が合体した新作『ROUSE UP!』を聴くと、RETRO GRETIONが限りない可能性を秘めていることが自然とわかるに違いない。 [INTERVIEW:加藤梅造]
12インチシングル=80'sの匂い
──新作のタイトル『ROUSE UP!』ですが、これはどんな意味なんですか?
K:「奮起しろ!」とか「やってやろうじゃん!」みたいな感じですね。これは、聴いてくれる人だけじゃなく自分達に対しても言ってるんですが。
──まずは何と言っても、この豪華な見開きの飛び出すジャケットが目を引きますが、なぜ12インチシングルっていう形態を選んだんですか?
K:12インチって80年代に流行ったんだけど、当時とんがってたバンドってだいたい12インチシングルを出してたじゃないですか。CLUB MIXとかいう名前をつけたりして。これもまたルーツ回帰のひとつで、80'sの匂いを感じさせるようなものにしたかった。
──音楽的にも80'sを意識しました?
K:そうですね。その辺はわりと作為的にやってますね。12インチの持つ遊びの部分というかリラックスした感じを出したかったし、もちろん次のアルバムに繋がる要素も入ってます。
W:昔、自分も12インチはよく買ってたから、12インチ出すのが夢でしたね。
K:とりあえず、これも課題のひとつだったんです。絶対に必要なもののひとつ。
W:今の時代、12インチっていうとジャケットがないものが多いけど、出すんなら絶対ジャケットがあるものにしたかった。
K:ジャケットも含めて12インチってすごいポップなものだよね。
──より多くの聴き手を想定してるんでしょうか。
W:やっぱりディスコでかけるっていう目的もありましたからね。
──ああ、だから4曲目がDISCO MIXになってるんだ
K:そうです。「LUNATIC DISCO MIX」となってる所がまた80'sっぽいんですけど。ただ、80年代風にMIXするっていうのはイヤで、やっぱり生きてるのは今だから、今の感性を持った人にMIXしてもらいました。
七つの海を越えよう
──1stアルバムの『Cardinal Points』では、原点回帰っていうのがキーワードのひとつでしたよね。
K:1stでは自分が生まれる前の原点みたいなところを目指したんです。ロカビリーはもちろんBLUESとかカントリーなど。で、今度の『ROUSE UP!』の場合、自分達が小学校や中学校の時に体験した「MTV」だったり「ベストヒットUSA」だったり(笑)、当時心にひっかかったもの、例えばDURAN DURANのサイモン・ルボン(Vo)はなんで「ル・ボ~ン」って声なんだろう?とか(笑)、そういう感じに近いものですね。
──余計わからなくなりましたが(笑)、80'sということで言えば今回、Xのカバー(『HUNGLEY WOLF』)が光ってますね。
K:昔からすごい好きで。これは自慢なんだけど、僕はXのライブも観たことあるんです。日本での知名度は低いけど、アメリカのパンクを語る時、Xはすごい重要なバンドだと思いますね。
──RETRO GRETIONの場合、カバーの選曲がアルバムの方向性をきちんと示してると思うんです。1stの時は、あえて『You Can't Catch Me』(Chuck Berry)や『Ring Of Fire』(Johnny Cash)のような古い曲を選んでますよね。オリジナルも『Crazy Baby About You』は、すごい50'sっぽいアレンジがされてて。80年代にストレイ・キャッツがやったのは、ロカビリーを最新型の音楽として甦らせたことだと思うんですが、RETRO GRETIONのやってることって、ある意味ストレイ・キャッツのやったことに匹敵するんじゃないでしょうか。
K:匹敵するかどうかはわからないけど、まあ2001年の日本からのちょっとした返答みたいなものかな。「これ聴いて育ちました、ありがとう」っていう感じですね。オールディーズとしてのロカビリーが好きな人もいると思うけど、ストレイ・キャッツはそれとは別物で、僕にとってはパンクだったんですよ。無駄なものが一切なく、どっから見てもカッコいいというパワーがあった。写真を見るだけでドキドキするみたいな。
W:ファッションはもちろん、考え方や生き方も変わりましたからね。
──『Cardinal Points』は、そういう生き方まで変えるようなアルバムだと思いますよ。リスナーの反応とかはどうですか。
W:いいですね。ジャンルとか関係なくいいです。逆にロカビリーファンの人の方が戸惑うかもしれない。
K:ストレイ・キャッツもロカッツも、厳密な意味のロカビリーじゃなくて、いろんなものからエッセンスを取り入れているじゃないですか。髪型ひとつとっても、あんなにでかいリーゼントって、明らかに女の子のスタイルからきてると思うし。クラッシュもそうだったけど、彼らには自分たちの美学ってものをすごい感じる。
W:自分たちなりの解釈があって初めてオリジナリティーが出るんじゃないかな。
K:だから「古き良きアメリカ」っていう言い方はしたくなくて、僕らが生きているのは日本だし、あくまで日本人としての返答だと思います。
──邦楽の影響っていうのもあるんですか? 資料によると、3曲目の『MY LITTLE CUTE CUTE GIRL』は久保さんにとって「俺なりのBOOWYであり、REBECCA」ってありますが。
K:僕がティーンの頃は、BLACK CATSとかBOTSとかは別にして、当時日本の音楽はほとんど聴かなかったんです。逆にみんなが聴いてたものは避けてたところがあって。でも、今回改めてそうしたものにチャレンジするのが自分の中でおもしろいなと思って。決してシニカルな姿勢でやってるんじゃなくて、自分たちがどういうふうにできるんだろうっていう、例えばエイトビートってウッドベースでやるには限界があるんだけど、それをどこまでカッコよくできるかとか、そういう課題ですね。
──実際難しかったですか?
E:そうでもないですよ。
──クールですね(笑)。きっとみなさん音楽に対してどん欲なんじゃないでしょうか。
K:うーん、単純に言うと、世界中の音楽を取り込んでやろうという気持ちはあります。七つの海を越えようと。だから、どん欲と言えばどん欲なのかもしれないけど、当然と言えば当然だと思う。音楽に仕切りや境は全くないから。ジャンルにとらわれず、自分の感性に引っかかったものを聴いたり買ったりしたほうが絶対いいと思うから。
ワンマンはやるべき課題のひとつ
──1stの終盤を飾る名曲『I Just Wanna Know About The Reason Why?』では「朝日が毎朝昇るように 川がいずれ海に流れつく様に 時は永遠の物だけを残してくれる … たぶんどこに行こうと僕はまた ここに戻ってくるんだ」と歌ってますが、この曲を聴くと、僕も含めおそらく誰もが自分のティーンの頃を思い出すだろうし、またバンドにとっても原点としての意味を持っているんじゃないかと思ったんですが。
K:単純に言えば、このバンドを信頼してやっているから、それでまたここに戻ってくると思ってるし、これからいろんなことがある中で、こんなはずじゃなかったと思うこともあるだろうけど、そんな時でもこれを聴けば「よし」って思えるんじゃないかな。この3人でやってる限りそれは大事にしたいし、ほんと一人でも欠けたらバンドとしては完璧に終わると思う。それぐらい自分にとって大事なものだと思う。
──では最後に、11/17に初ワンマンがSHELTERであるわけですが、それについてコメントを。
K:ワンマンというのもやるべき課題のひとつだったから。
W:普段30分枠のライブでは収まりきらないものをやると思いますよ。
──アイデアマンの久保さんとしては何か考えてるんじゃないですか?
K:意外なことも多少はやるでしょうね。
E:また来なかったりするの?(一同爆笑)
W:現時点での集大成であると同時に、ちょっとだけこれからの展開も入れるって感じですね。まあ、俺が来ればの話ですけど(笑)。