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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】探偵物語Remix(2001年11月号)- 世の中なめてるように見えるんだけど、イザとなると本気になる松田優作の独特の世界観が格好いい

世の中なめてるように見えるんだけど、イザとなると本気になる松田優作の独特の世界観が格好いい

2001.11.09

 1972年。当時国民的人気を博していたテレビドラマ「太陽にほえろ!」その主役であったショーケンこと萩原健一演じるマカロニ刑事のまさかの突然の殉職に日本中が揺れた。若者に絶大な支持を受けていたマカロニの後任という大役に大抜擢された当時新人であった松田優作。ジーパン刑事として、僕たちの前に突如現れた彼はそれを機に一躍スターの仲間入りをする。
 185cmという身長に長い足というスタイル。日本人離れした肉体能力。そして演技にたいする妥協なき姿勢で、優作は日本映画・テレビ界において唯一無二の存在となる。
 そんな松田優作のベスト・アクトに挙げられることも多いテレビドラマ「探偵物語」。優作演じる私立探偵・工藤俊作は、スーツにカラーシャツ、愛車のVESPAと従来の探偵のダンディズムとはほど遠いスタイルであったが、今までにないコミカルでハートフルなキャラクターで放送から20年以上経った今も愛され続けている。
 今回、SHOGUNが担当していたあのドラマのテーマ曲たちがremixされ再び蘇った。工藤俊作は最終話で雨の渋谷に消えていったが、今でも僕たちの中に生き続けている。[Text:北村ヂン]

世の中なめてるように見えるんだけど、イザとなると本気になる

──まず最初に、今なぜ探偵物語なのかっていうのがあるんですが。このremixアルバムを出そうと思った経緯から教えてください。

Napalm(napakick):僕は元々、remixとかの仕事はやってたんですけど。ちょっと前にremixブームみたいな感じで、アニメのremixアルバムとか次から次に出てたじゃないですか。でも、そういうのってどれも同じ様なメンツばっかりだったんで面白くないなあと思ってたんですよ。その頃、たまたま行ったクラブでSHOGUNの「男達のメロディ」がかかってて、それがメチャクチャクラブの雰囲気にあってて、お客さんも盛り上がってたんですけど、その時になんとなく「探偵物語」のテーマでremixを作ったら面白いんじゃないかな、と思いついたんですよね。権利関係とかも色々あるんで、実際に動き出すまでにはしばらくかかったんですけど。これは本当にたまたまなんですが、このアルバムにも参加しているK.U.R.O.@さんの知り合いの人がケーシー・ランキンさんと友達だったんですよ。それで、みんなで家に遊びに行ったんですけど、すごい気さくな人で、remixアルバムの話をしたら、やってみたら面白いんじゃないって言ってもらえて。

──アルバムの参加メンバーですけど、小西さんとかはわかるんですけど、smorgusのアイニとかスケボーキングのSHIGEOさんとかがこういうremixアルバムに参加してるっていうのはかなり意外ですね。

Napalm:二年くらい前からSHIGEOくんとは知り合いなんですけど。ずっとセンスあるな~とは思ってたんで、今回「remixerとしてやってみない?」って話をふってみたら「やりたいやりたい」って参加してくれることになったんですよね。アイニ君もremixerをやるのは初めてなんですけど、今までブレイクビーツの打ち込みユニットやったり、ドラムンベースやったりと、発想が日本人じゃないなっていうのがあって。まあ普通と違った角度でやってくれたらいいなと思ってたんで。

──いわゆるこの手のremixアルバムでのベタな人選っていうのを避けたってことですかね。

Napalm:まあ、結構メンバーも二転三転したんですけどね。急にスケジュール的に無理になったりとか、アルバムのレコーディングと重なっちゃったりとか。

──でも、最終的には色々なジャンルの人がいい感じにまとまった感じにはなってますね。僕もそうなんですけどNapalmさんも年齢的に探偵物語をタイムリーで見てた世代ではないですよね。

Napalm:そうですね、全然タイムリーにではないですね。何年か前に夕方の5時台くらいに再放送をやってたのを見てました。そのころ僕、深夜番のバイトやってたんですけど、昼間寝て、起きる頃にちょうどやってたんですよね。

──コーヒーのCMに探偵物語が使われたりして、ちょっとリバイバルしてた時期ですよね。僕が見てたのも多分一緒の再放送の時ですね。基本的にテレビの連ドラって見ないんですけど探偵物語に関しては、本放送が放映されていたのは79年なのに、再放送で見ても全然古さを感じなくてメチャクチャ面白くってハマリましたね。

Napalm:やっぱり工藤ちゃんというか、松田優作の独特の世界観がすごい格好いいんですよね。世の中なめてるように見えるんだけど、イザとなると本気になるところもあったり。

──やっぱり探偵物語の面白さって、工藤ちゃんのキャラクターの魅力による部分は大きいですよね。

Napalm:あと、一個一個の小道具にまですごいだわっている感じが好きですね。緑色のワープロを人形のジェニーちゃん使って打って調査報告書を作ったり、普通そんなことやるか? みたいな所までこだわってますからね。

──他にもライターの火は全開とか、飲む酒まで決まってたりと色々ありますよね。そういうのってすごい細かい事なんだろうけど、それがあることによってすごい効果的にキャラクターが確立されてますよね。

Napalm:でもドラマの企画段階では全然違う設定だったらしいですけどね。当初は探偵物語自体ハードボイルド探偵物っていう位置づけだったという。それを優作さんが既存のハードボイルド物は作りたくないって反発して、ああいう風になったみたいなんですけど。

──松田優作が「アクションスター」としか扱われないことに対して不満を持っていた時期ですよね。工藤俊作のキャラクターに関しては衣装とかまで松田優作が自分で決めていったんですよね。さすがに20年以上前のドラマなんで、共演で出てる他の俳優の衣装には時代がすごく出ちゃってるんだけど、工藤ちゃんが画面に出てくると全然絵的に色あせてないですよね。そういう意味では本当に先進的な感覚の持ち主だったんでしょうね。他の参加メンバーの人たちもただremixerとして参加したというよりは、探偵物語とか松田優作が好きで参加したって感じなんですよね。

Napalm:そうですね。今回スゴイ忙しいのに、強引に他の仕事を蹴ってまで参加してくれた人もいるし。池田(正典)さんとかは自分で聞きつけて「やらせてくれ」みたいな逆オファーをもらったり。やっぱりみんな好きなんだな~って感じですね。

──逆に参加する側にそれだけ思い入れがあるとなると、それぞれどの曲をやるかっていう段階で色んな問題が出てきたんじゃないですか? 曲の取り合いになったりとか。

Napalm:いや、ズルしてこっちで決めちゃっといて「もう決まっちゃってるんです」みたいな感じで割り振って行きましたね。

──嫌がる人とかいませんでした。

Napalm:まあさすがに、それはなかったですけどね。

ただremixするというよりは工藤俊作の世界観でみんなで楽しもう

──Napalmさん自信はnapakickで「Lonely man」をやってますけど、最初からエンディング曲の方がいいなと思ってたんですか?

Napalm:う~ん、本当は「Bad City」をやりたかったんですけどね。さすがにこのメンツの中だと選べる権限がないんで(笑)。

──あ、そうなんですか。やっぱり探偵物語っていって真っ先に思い浮かぶのは普通「Bad City」ですもんね。でも、仕切る側としては一応ちょっと遠慮して。

Napalm:まあ、全体的な事を考えると、ただremixするというよりは工藤俊作の世界観でみんなで楽しもう、みたいな部分が大きいんで。あと、セリフを曲中で使ってもいいということになったのは大きいんですよね。セリフを使えるとなったら、やっぱり世界観がバンッと出てきますからね。それで全部見直しましたね。使えそうな所とか、面白そうなセリフとかをチェックして。工藤ちゃんって真面目なことを言ってるシリアスなセリフも結構あるんだけど、実際曲の中に入れてみるとイマイチで、どっちかというと面白いっていうかポジティブな、楽しい感じのセリフで固めました。工藤ちゃんを語る上で、やっぱりお笑い的な要素っていうのは重要なんで。

──探偵物語全体にもその傾向は見られますよね。例えばテレビのオープニングも「Bad City」の曲はメチャクチャクールで格好いいんだけどズボン履いてなかったり、コーヒー吹き出したりとか、面白要素入ってきてますからね。

Napalm:今回使ったのは「Bad City」と「Lonely man」「As Easy As You Make It」なんですけど実はもっと他にも使いたい曲もあったんですよね。でも、remixを作る場合、原曲のマルチのテープから素材用に各トラックをバラバラに取り込まなきゃだめなんですけど。さすがにアナログマルチが21年前の物なんで湿気がついちゃってて、全然回らないんですよ。テンポが段々遅くなってきてこれ以上やるとテープが切れて大変な騒ぎになるって事でストップしたんですけど。

──今回使ってる曲もテープの古さ的には同じくらいのものだと思いますけど、そっちの方は大丈夫だったんですか。

Napalm:「Bad City」と「Lonely man」は結構すんなりうまく行って。「As Easy As You Make It」はちょっと後半テンポがよれてくるんだけどギリギリオッケーみたいな。でも打ち込みでremixする人は段々テンポが変わっていっちゃうんですごいやりづらかったみたいですけど。

──ああ、じゃあこの企画もあと数年遅かったらテープが全滅で実現できなかったかもしれないくらい、タイミング的にギリギリの所だったんじゃないですか。

山下(SONY MUSIC):タイミングって事を言うと、実は今年の11月6日で優作さんの13回忌なんですよ。この間も熊谷(松田)美由紀さんが記者会見とかやってたけど。まあ、それに合わせて松田優作プロジェクトっていうのが出来ていて、今ちょっとづつ盛り上がりを見せてるんですよね。これから探偵物語の13枚組のDVDボックスが発売されたり、出演作品のオールナイトがあったり、本が出たり、映画のDVDが出たり……。でも、俺たちは最初全然そういうの考えてなくて、このアルバムも本当は去年の内に出す予定だったんだけど、スケジュール的に色々あって今年になっちゃったら、うまい具合にはまっちゃって、知らない内にプロジェクトの一つに組み込まれてたという。そういう意味ではラッキーといえばラッキーかもしれないよね。

それだけ松田優作の存在はデカかった

──ああ、もう13年も経つんですか。しかし死んでから13年経ってもこれだけみんなの記憶に残ってるっていうのはすごいですよね。「探偵物語」にしても、放送してたのは20年以上前じゃないですか。テレビドラマってどうしても次々消耗されていく物ですからね、例えば今「東京ラブストーリー」のremixアルバム出すとかいったら笑われるだけですからね。

Napalm:まあそれだけ根強いファンが常にいるってことなんでしょうね。

──松田優作はブラックレインの撮影に入る前にガンの告知をされてて、その時撮影を断念して手術してたらもっと長く生きられたろうと言われてますけど。もし、今も生きてたとしたらどんな俳優になってたと思いますか。

Napalm:う~んどうなんだろ、やっぱりハリウッドとか海外系の映画にも出てすごい活躍してたでしょうね。

──ハリウッドに日本人が進出する足がかりになってたんでしょうね。もしかしたらあっちでも監督デビューしてたかもしれないし。(高倉)健さんもあれ以来ハリウッド映画には出てないですよね。それ以降にハリウッドの映画出てるのって松田聖子くらいですからね(笑)。タランティーノの次回作に千葉真一が出るとか出ないとかっていう噂はありますけど……、結局今のところあっちでちゃんと成功してる人はいないですからね。

Napalm:結局、それだけ松田優作の存在はデカかったってことなんですよね。

探偵物語 Remix~これにて一件落着~

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