昨年バンド結成25周年を迎え、いまや見た目はもちろん存在そのものがロック界の重鎮と言っても過言でない我らが兄貴「GARLICBOYS」。彼らの長い歴史の中で生まれた数々の名曲・迷曲を、最強の布陣と言われる現メンバーで再び新録したベストアルバム『再録ベスト』が完成した。ナンセンス、ギャグ、自虐ネタから社会風刺、心象風景までを独特の言語感覚と卓抜した演奏力でロックに昇華するGARLICBOYSのサウンドは、一度ハマったら最後、病みつきになるフェロモンのように危険だ。来年は約80公演の「再録ベスト」ツアーも敢行する彼らにアルバムについて語ってもらった。(TEXT: 加藤梅造)
バンドは今が一番いい状態
──まずは今回『再録ベスト』を出そうと思ったきっかけを教えて下さい。
LARRY:今、バンドの状態が一番いいとメンバー全員が感じているので。前々から昔の曲を取り直したいと思っていて、後はタイミング次第だった。それが今かなと。
──当然ながら名曲揃いのラインナップになってますが、選曲は難しかったんじゃないですか?
PETA:最近のライブでやっている曲を入れたので、特に迷ったりはしなかったですね。
LARRY:アレンジもほとんど変えてないんです。ライブでやっているそのままなので、よりストレートになっていると思います。歌をメインに聴かせたいというのが基本方針でした。
──ボーカルは年齢的なものに左右されやすいと思いますが、若い時と比べて衰えもなく?
PETA:むしろ前よりもパワーアップしているように自分では感じています。ずっとライブをやり続けているからだと思うんですが、クオリティは上がってきてるんちゃうかな? 今、一番調子いいですよ。
──PESSINさんとRYOさんにとっては、(当時別のメンバーだった時の)有名な曲を録り直すというのは緊張しますよね。
RYO:そうですね。昔、自分がリスナーとして聴いていた曲を録り直すっていうのはかなりのプレッシャーでした。
PESSIN:もう「ベースは俺しかいないんだ!」と自分にいい聞かせてやりました。
カッコつけてもしょうがない
──では収録曲についてお聞きしたいと思います。一番古い曲としては「YOKOZUNA」ですが、今やGARLICBOYSを象徴する曲と言えますよね。
LARRY:当時はいろいろ迷いながらやっていたんですが、今思えばこの路線はずっとやり続けてますね。
──結成当初は普通にパンクっぽい曲とかやってましたよね。
LARRY (PETA)本人はカッコいいつもりでやってたと思いますよ。1stの『NINNIKU NIGHT』の頃は特に。
PETA:いや〜、若気の至りでした。
──オナニーについて歌っている「MY TEENAGE HEART」などは、歌詞が普通に青春っぽい内容だったら、同時期のビートパンクバンドとして通ってたんじゃないですか? バンドブームもありましたし。
LARRY:絶対なれへんかったと思いますよ(笑)。もともとそこに立つバンドじゃないと思っていたし、やりたいことはそれじゃなかった。レピッシュとか、同時代にカッコいいバンドがたくさんいたけど、俺らはそういうんじゃないなと。
──それで『KING OF SMELL』(世界で一番臭いやつ)になったんですか?
LARRY:まあ実際、臭かったですから。でも居直りとかじゃなくて、単に自己紹介的な? 俺ら臭いですよ、と。
──関西ではウケてたんですか?
LARRY:ウケませんよ、どこいっても。やっぱりコミックバンドと見られてましたね。むしろ東京の方が表現の幅が自由だったと思います。
──誤解もされていたと思いますが、逆にGARLICBOYSはどこにも属さなかったからこそ何でも自由にできたんじゃないですか?
LARRY:今でもアホだけど、若い頃はもっとアホでしょ? 少しは雑誌に載りたいっていう気持ちがあったんです。ロッキンFからジャズ・ライフまで、そういうのに全部。だからいろんなジャンルの曲をやりたいと。今思えばどれも全然できてないんですけどね(笑)
──PETAさんはもともとフォークが好きだったとのことですが、自分の情けなさをさらけ出して歌うというスタイルは、ある意味フォーク的ですね。
PETA:カッコつけてもしょうがないって思ってたので。そもそも歌ってる人間がカッコ悪いですから。
LARRY:いくらカッコいいバンドでも、家帰ったらパンツ1枚になるだろうし、足は臭いし、そういうもんだろうと。
──80年代はバブルでみんながブランドの服を着てカッコつけてたと思うんです。そういう時代に、あえてカッコ悪い自分をさらけ出すのって珍しかったのでは?
LARRY:単に周りの状況が見えてなかったんですね。金もなかったし、そもそも時代がバブルだってことすら気づいてなかった。偶然の産物ですね(笑)
PETA:丸井のカードって何だろう?って思ってた。
──今聴くと、それが社会風刺になってるというか、時代を切り取ってるとも言えますよ。
LARRY:時代に乗れてなかったから、逆に客観的に見れたんだと思う。妬みも含めて。
「何がしたいの?」って言われた
──次に古いのが「ナルシスト宣言」ですが、アルバム『ナルシスト宣言』自体完成度が高かったですよね。
LARRY:やっぱり複雑な曲ができるようになったというのもあるんじゃないですか。全員がその方向で行けた。
──今回は収録されてないですが「万歳!! ぐうたら人生」とか名曲ですね。
LARRY:あれは当時の自分たちの生活そのものです。まあ今のほうがより本物のぐうたらですけど。昔から、ぐうたらな人生が送れたらいいなっていう願望があったんですが、今はそれが達成できたのか(笑)。
──僕も似たような生活だったんで、すごく共感してました。
LARRY:見方を変えれば青春パンクなんですよね。等身大のメッセージ?(笑)
──滑稽なんだけどリアルすぎて。「あんた飛ばしすぎ」とか、飲み会で失態したことある人なら誰でもドキっとする。しかしこの曲も人気ありますよね。
PETA こんなに評価されるとは思ってなかったですね。当時はパンクなのにブラストって誰もやってなかったから、こんなんでいいんかなあ?って。
──音楽的にもどんどんミクスチャーになっていって、ジャンルレスの時代の先駆けでもあったと思います。
PETA:セールス的には伸び悩みでしたが。
LARRY:それはずっとです。『POEM』は自分的にはひとつの完成型だと思ってたんですけど、なんの評価もなかった…。
──GARLICBOYSの特徴として、ハードで緻密なサウンドに乗せてナンセンスや自虐ネタを歌うっていうのが初期からずっとあるんですが、『POEM』以降はより抒情的な、ある意味フォーク的な要素が入ってくると思うんです。
LARRY:それは作曲法も変わってきたというのがあって、それまではリフでずっと押してたのが、もう少しコードで展開していくような作り方にしたのが大きかった。
──それがさらに開花したのが『LOVE』収録の「Too Late True Love」ですよね。時代を越える名曲だと思いますが、手応えはありました?
LARRY:それがまた全然…。当時のレーベルの人からも「何がしたいの?」って言われる始末で。ラジオに出たら「GARLICBOYSがOASISみたいになりました!」って真顔で言われて、バカ言ってんじゃないよって思いましたよ。かなり後になってから、自分らより若いバンドから「すごい名曲ですよ!!」って言われる機会があって、あぁ、あれでよかったんだとようやく実感できた。
──それは意外ですね。歌詞もよく聴くと背筋が凍るような内容で、僕は映画の「情婦マノン」なんかを連想しました。
PETA:きれいなメロディの曲だから、ここに普通の歌詞を乗せたら面白くないなと。だから、ひねった感じの究極の愛について書いたんです。
──『LOVE』からは他にも2曲(「泣き虫デスマッチ」「ダンシングタンク」)が再録されていますが、アルバムとしても自信作だった?
PETA:当時はAIR JAMとかもあったし、アルバム自体を知っている人が多いというのもありますよね。
──その頃、LARRYさんは「GARLICBOYS、キター!」と思ったそうですが。
LARRY:全然きませんでした。一度もきたことない…。