悠然として幽玄。雄大にして壮麗。2年3ヶ月振りに発表される“あら恋”待望の新作は、メランコリックな夕暮れ時というよりも漆黒の東の空から鮮烈に突き刺す朝日のような希望を感じさせる音像。リーダーの池永正二によれば本作のテーマは“旅立ち”であり、日常に潜む影とそこに隠れた光を等比に描きたかったという。だからなのだろう、池永の奏でる鍵盤ハーモニカを基調とした有機的なアンサンブルは光と影をたおやかに行き来する音の波動のようで、鋭角的なエレクトロ・ビートからは光の射すほうへ足を一歩踏み出すような強い意志を感じる。なかでも川上未映子の同名小説からインスパイアされた『ヘヴン』の心地好い浮遊感と程よい感傷が同居した音の構築、ミニマル・ファンクをベースにした『テン』のサウンド・コラージュの妙は叙情派インストゥルメンタル・ダブ・ユニットの面目躍如といったところ。9月4日(水)に下北沢シェルターで行なわれる本作の全収録曲ライブ演奏会が今から楽しみだ。(椎名宗之)