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INTERVIEW

トップインタビュー宅野誠起(アニメーション監督)- 「さよなら私のクラマー」「さよならフットボール」サッカーに限らないもっと普遍的なものを含んでいる作品

「さよなら私のクラマー」「さよならフットボール」サッカーに限らないもっと普遍的なものを含んでいる作品

2021.04.01

 これまでラブコメ作品を多く手掛けてきた宅野誠起がスポ根青春モノに挑戦。サッカーに励む高校生たちの爽やかな姿とともに、女子サッカーを取り巻くリアルも描いた青春群像劇。スポーツ観戦などがむずかしく、熱狂することに飢えている今、彼女たちの物語をどう描くのかを伺いました。[interview:柏木 聡(LOFT/PLUS ONE)]

新川先生は言葉遣いが独特だなと思いました。

――アニメ化のお話はいつごろあったのですか。

宅野: 2018年の年末にはお話があって、2019年にはシナリオの打ち合わせをしていたので、『寄宿学校のジュリエット』が終わる前にはお話を頂いていましたね。

――そのころには、新川(直司)先生から原作が完結するというお話は聞いていたのですか。

宅野:最初にお話をさせていただいた時に、原作が近く完結するという事は新川先生がおっしゃっていました。

――原作完結も見据えた上でアニメ化が進んでいった形なんですね。

宅野:そうですね。私たちや編集部の方たちも、みなさんもっと先を見たいという思いはあったのですが、新川先生の中では、あそこで終わることを想定して描かれていたということなので、そのお気持ちを尊重した形になると伺いました。

――宅野(誠起)監督にとって初めてのスポーツモノになりますが、監督のお話を頂いた時のお気持ちはいかがでしたか。

宅野:今までラブコメをメインでやってきたこともあって、新しいことに挑戦したいという欲望が自分の中に生まれつつありました。そのタイミングでお話をいただいた形です。新ジャンルに挑戦できることの嬉しさを感じていました。

――『さよなら私のクラマー』(以下、『クラマー』)を読んだ時の感想を伺えますか。

宅野:じつは、最初に読んだのは『さよならフットボール』(以下、『フットボール』)なんです。

――順番に読んでいったんですね。

宅野:はい。最初に感じたのは恩田希というキャラクターの負けず嫌いな性格の魅力です。この部分が1本の筋として通っているので、アニメにするときはこれを軸として作れるなと思いました。あと、新川先生は言葉遣いが独特だなと思いました。

――言葉遣いのこと、わかります。読んでいてセリフが心に残りますよね。

宅野:画作り・コマ割りも素晴らしいのですが、まずは言葉の方なのかなと思いました。これはアニメ監督の視点になってしまうかもしれませんが、初めて『クラマー』を読んだときは、主人公は誰なんだろうな、とは思いました。

――ワラビーズのメンバー全員が主役って感じですもんね。エピソードによっては相手チームが主役の時もありますし。

宅野:そうなんです。それもあって、TVアニメとしてひとつにまとめるために希の視点を強めにしました。

――映像作品として特別な演出をしているんですね。アニメーションは流れていくもので、漫画と違って戻れないですから、そういった視点の統一も必要になったという事でしょうか。

宅野:そうですね。

間違いなく今まで手掛けた作品の中で一番大変です

――『クラマー』はサッカーの戦術など専門的な知識も盛りだくさんですが、どのように読み解かれているのですか。

宅野:まさに今、想像が足りていなかったなという事をヒシヒシと感じています。私は全くサッカーに縁のない人間で、見るとしたら日本の代表戦を見るくらいですから。

――普通の方はそうですよね。

宅野:勉強はしていますけど、素人が容易くできるものではないぞ、というのを日に日に感じていますね。

――TV中継でもフィールド全体がどういう動きをしているかは見えないですもんね。

宅野:そうなんです。原作も、漫画という表現の上で全体を映すことは少ないですから。ただ、アニメーションにしてしまうと奥が全部見えてくるので誤魔化しが効かないんです。間違いなく今までに手掛けた作品の中で一番大変です。シリーズ構成の高橋ナツコ(以下、高橋)さんも、ドラマ作りに秀でた方ですが、サッカーに関しては私と同じく全くの素人なのでご苦労があったそうです。高橋さんもDAZNに入られてイチからサッカーの勉強をされていると伺っています。

――観ている人の方が詳しいまでありますもんね。サッカーに関してアドバイザーを立てたりはされているのですか。

宅野:ライターチームの中に元放送作家でサッカー番組に携わっていた大草芳樹(以下、大草)さんという方がいらっしゃって、監修を兼ねていただきました。同じく脚本協力で入っていただいているリンリンさんという方もサッカーに詳しい方で、そのお二人に入っていただいて本づくりを進めていきました。演出面では、石井輝(以下、石井)さんという非常にサッカーの好きな演出家の方がいるのですが、その方に入っていただいて棋譜づくりをしていただいて進めていきました。

――脚本・演出ともにアドバイザーが入られているんですね。

宅野:選手たちの動線もそうですが、石井さんは普段からサッカー観戦をよくしている方なので、サッカー好きの視点、例えばガヤや現地での掛け声、応援歌という物から、審判の立ち振る舞いも監修してもらっています。

――確かに、そこも必要になりますね。

宅野:専門性が非常に高くて、難儀しました。私はドラマ作りに専念し、細かい部分は石井さんに手伝ってもらいましたね。

――アニメ化の話を伺ってから原作を読んでも、映像化にそこまでの大変さがあるとは思い至りませんでした。

宅野:『クラマー』はリアル寄りというか、嘘で逃げずにリアルな現代サッカーを追い求めている部分もあって、そこが魅力でもあるので、そのリアリズムを無視するわけにはいかないんです。そういう意味ではこの作品は愚直にサッカーを追及しているので、アプローチが今までのサッカーアニメのようにはいかなかったですね。

――アニメ化にあたって新川先生からこうして欲しいといったリクエストはあったのでしょうか。

宅野:何度かお会いしてお話してますが、具体的なものはないですね。ただ、サッカーが本当に好きだという事はビシビシ伝わってきます。だからこそサッカー表現の手を抜くわけにはいかないなと思っています。

――『クラマー』キャラクターが多いじゃないですか。同じチームだけで見ても11人、監督やコーチに控えも入れるとさらに。それだけの人数がいるとそれぞれのキャラを立たせるのも大変なのかなと思いますがいかがですか。

宅野:そうですね。これは原作の魅力なんですがひとつの話の中でも視点が色々交錯して、色んなキャラクターの内面が語られていく、というのがあるんです。

――そうですね。

宅野:一般的な作品は、ある場所では誰かにフォーカスして、別の場所では別のキャラに、という見せ方になるのですが、『クラマー』は同じピッチ上の連続した時間の中でキャラクターのスイッチングがあるので、技術的な部分で非常に難しかったです。

――試合のスピード感を殺してはいけないですからね。

宅野:そういう意味では仕方ないのですが、ボールがタッチラインを割っても本来であればすぐに試合再開となるのですが、そこで会話やドラマを入れて描いています。原作でもそういった形でキャラクターたちのやり取りやドラマが入っていますね。

――人数が多いとキャストを決めるのも大変ではないかと感じています。声質の近い方が同時に話すと、どのキャラクターが話しているが分からないこともあるのでは、と心配に感じています。

宅野:高校生の話なので15~18歳と年齢が近いため、年齢での差別化は難しかったですね。同じ年代でキャラクターの違いを見せるということでは、声質の高低差でキャラクターごとの特徴を出してもらいました。キャスティングに関しては私の中でのイメージはありましたが、未知数の部分もありました。

――実際に演じていただくことでみなさんの演技が化学反応を起こすという事もありますよね。

宅野:それが、通常は人数の多い作品はアフレコを通して化学反応が起きやすい現場なんですけど、コロナ禍でブースに入れる人数が限定されてしまうことで、掛け合いによる相乗効果は生まれにくくなり、今の状況では不利な作品になっているかもしれません。

――コロナの影響がそんなところにも出てしまったんですね。大人数で集まれないので集団心理を描くのも難しいのではと思いますが、演出で意識されたことはありましたか。

宅野:コロナ禍だからと特に意識したこと事はないです。絡みの多い方は一緒に収録していただけましたし、その辺ではコロナだからという苦労はなかったです。

――みなさんの演技はいかがでしたか。

宅野:演技の上手い方ばかりで、演じていただきたかった方に集まっていただけているので安心感があります。キャラクターをより自分のものとして内面化して演じてくださるので、素晴らしいです。一番嬉しいキャスティングは、鷲巣兼六監督役を演じていただいている山路和弘(以下、山路)さんですね。山路さんにはどうしても演じていただきたかったので、引き受けていただけたのは嬉しかったです。

――それは楽しみですね。鷲巣監督といえば、能美奈緒子コーチに影響を与える役どころですから。

宅野:そうなんです。山路さんと甲斐田裕子さんが一緒になれる時間帯をつくることができ、二人一緒に収録できたのは至福の瞬間でした。

――キャスティングの際に新川先生からリクエストがあったりしたのでしょうか。

宅野:そこもコチラに任せていただいた形です。原作を読んだ時の私のイメージからお願いしました。

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「さよなら私のクラマー」14巻

著者:新川直司
出版:講談社  
2021年4月1日発売予定

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「さよならフットボール」全2巻

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LIVE INFOライブ情報

TVアニメ『さよなら私のクラマー』

TOKYO MX、BS日テレ、KBC、AT-Xにて
2021年4月4日(日)より毎週日曜日23:30~順次放送開始
 

『映画 さよなら私のクラマー ファーストタッチ』

2021年初夏 劇場公開予定
 
CAST
恩田 希:島袋美由利
越前佐和:若山詩音
周防すみれ:黒沢ともよ
曽志崎緑:悠木 碧
白鳥 綾:古城門志帆
田勢恵梨子:嶋村 侑
宮坂真琴:山田麻莉奈
菊池 類:前田玲奈
岸 歩:和氣あず未
小紫佐織:酒井美沙乃
御徒町紀子:春野 杏
加古川香梨奈:長谷川玲奈
能見奈緒子:甲斐田裕子
深津吾朗:諏訪部順一
梶 みずき:早見沙織
井藤春名:石川由依
佃 真央:小市眞琴
桐島千花:牧野由依
天馬 夕:小林愛香
安達太良アリス:きそひろこ
花房 圭:大森日雅
飛鳥永建:黒田崇矢
 
■STAFF
原作:新川直司「さよならフットボール」「さよなら私のクラマー」(講談社KC刊)
 
監督:宅野誠起
シリーズ構成:高橋ナツコ
キャラクターデザイン:伊藤依織子
音楽:横山 克
サッカー演出:石井 輝
サッカー考証:大草芳樹
プロップデザイン:伊藤依織子 / 佐賀野桜子
美術監督:齋藤幸洋
美術設定:青木智由紀 / イノセユキエ
色彩設計:野地弘納
CGディレクター:山崎嘉雅
画面設計:田村 仁
撮影監督:棚田耕平 / 後藤晴香
編集:吉武将人
音響監督:鶴岡陽太
音響効果:森川永子
アニメーションプロデューサー:柴 宏和
アニメーション制作:ライデンフィルム
 
公式Twitter:@cramer_pr 
 
©新川直司・講談社/さよなら私のクラマー製作委員会
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