今なお愛され続けているライトノベルの名作『魔術士オーフェン』が20年ぶりにTVアニメシリーズとして復活。新シリーズで初めてアニメとして描かれた『キムラック編』。『魔術士オーフェン』という物語を通しても重要な分岐点となる本シリーズでオーフェンと対峙する死の教師最強の暗殺者クオ。オーフェンをかつてないピンチに陥れた最強暗殺者をどのようにとらえ演じたのか。『魔術士オーフェン』に対する思いとともに杉田智和に語っていただきました。[interview:柏木 聡(LOFT/PLUS ONE)]
彼だからこそという唯一無二性を持っている
――『魔術士オーフェン(以下、オーフェン)』に出演が決まった時の率直なお気持ちを伺えますか。
杉田:まだ、あんまり実感がないです。最初のアニメが放送されていた頃は声優になった直後くらいで、学ぶためにいろんな作品を観ていた時代でした。そんな中でも印象に残っている作品の1つです。その後『スウィートジャンクション』というラジオ大阪の番組で森久保(祥太郎)さんときょうえんさせていただきましたが、その時、話題に出てくるのが『オーフェン』と『MAJOR』でした。出演が決まった時は、あの頃真似ばかりしていた若造がついに森久保さんと戦えるんだ、と嬉しく思いました。
――『オーフェン』に持つ印象を伺えますか。
杉田:「『オーフェン』だから許される」という領域に入っている作品だと思います。作品から漂うおしゃれな雰囲気、オーフェンにしか似合わないファッションと戦い方、彼だからこそという唯一無二性を持っているのが『オーフェン』という作品だと感じています。
――今作でもオーフェンを演じられている森久保さんはどのような方ですか。
杉田:音楽とスタイリッシュを違和感なく持ち込める稀有な存在だと思います。普通は拒否反応が出るんですよ、僕自身がそうですし。主題歌でもタイトル全然言わないですから。それは前作オーフェンの『愛Just on my Love』でもそうでしたけどね(笑)。
――OPがシャ乱Q、EDもハロプロでしたね。
杉田:それでも凄い合っていて、あれは奇跡だなと思います。自分たちを構成するもの、取り巻く環境、それをキャラクターが引き寄せているのかなとも感じています。『オーフェン』はそういう魅力を持っている作品で、森久保さんはその担い手なんだと思います。
演じることで彼の到達点が見えたんです
――現場で実際に演じられている森久保さんはいかがでしたか。
杉田:主人公として自然に作品へと導いてくれる方です。
――アフレコ中にお話しされたことなどあれば教えてください。
杉田:真剣に録っているので、あまり無駄口は聞かないですよ。みんなが思うようなバラエティー要素がないのが逆に申し訳ないないくらいです。言いたいことはマイク前でキャラクターに込めているので、それを見てくださいとしか言いようがないですね。
――それだけ真剣に向き合っていただけるのはファンとしてもとても嬉しいです。『オーフェン』出演が発表された際のコメントでは「謎の高揚感と恐怖に苛まれました」とおっしゃられていますがこの“謎の高揚感”というのは。
杉田:簡単に言うと「やった、オーフェンと戦える」という気持ちです。真似ばっかりしていて、ずっといいなと言っていただけだった彼と、本当に戦えるんだと。
――“恐怖”というのは。
杉田:子安(武人)さんと戦った後、僕なので、「自分で大丈夫なのか」という感情です。しかも子安さんは僕の息子役ですよ。そういう不思議な相反する感情が自分に渦巻いているという意味です。
――その後に「一言しゃべった後に確信しました」とありますが、“確信”とはどういう所なんでしょうか。役に入り込める、そういう物があったのでしょうか。
杉田:演じる前はクオの事がいまいちわかっていなかったんです。僕はいつもキャラクターを演じるうえで出発点と到達点を考えるんです。マイクの前で演じることで彼の到達点が見えたんです。それが何なのかはアニメを観て感じていただければと思います。
――実際にアニメの映像は観られましたか。
杉田:はい。収録でほぼ出来上がっていたので、嬉しいですね。
――フィルムを観られていかがでしたか。
杉田:演じている時には視聴者としての目線は持たないようにしているので放送を観て改めて感じることがあると思います。『オーフェン』は画もそうですけど音も重要な構成要素だと思っています。前作ではSE・音楽が凄く印象に残っています。今作ではそこがどうなっているかなという不安もありました。その不安を感じさせないくらい森久保さんが魂を込めていらっしゃいます。20年という時間の経過を感じさせないというのは凄いですね。ブランクは感じませんが、オーフェンとしては常に成長しているんです。今この時間を持ってなお。そこを皆さんにも感じていただきたいですね。
――クオは自身の親子関係もそうですし、死の教師という立ち位置的なものもあり凄く複雑なキャラクターです。演じられる際に意識されたこと、クオという人物をこう捉えたという事があれば。
杉田:こういった組織では従わなければ敵になってしまうので、基本は考えが統一されていくのだと思います。そんな中で野心や自己を捨てずに持ち続けている人は少ないと思うのですが、クオはそういった特殊な立ち位置に居ると思います。
――実際に演じられた際に浜名(孝行)監督や平光(琢也)音響監督からこういうキャラクターですと演技指導された部分はあったのでしょうか。
杉田:監督や音響監督からの演技指導はあまりなかったですね。それよりも横で演じている皆さんの芝居をちゃんと捉えないといけない、と考えながら演じました。クオは言葉を発しながら、その先にある物を考えているので、そうしないと芝居にならないんです。なので別録りになったとしても、収録済みの音声があったら流してほしいとお願いしていました。